代役というドラマが思いもよらぬ反応を呼び起こした例は少なくない。さて、今回はどうか。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
* * *
続々とスタートを切っている夏ドラマ。この時期はオリンピック開催時期と重なることもあり「地味な作品が多い」「制作に今一つ力が入っていない」などと囁く業界筋もいます。が、視聴者としては何をどう楽しむか。ひょんなことからトリッキーな成功を収める事例が生まれてくるかもしれません。
7月15日にスタートする『推しの王子様』(フジテレビ系木曜午後10時)では病気療養で主役を降板した深田恭子さんに代わり、白羽の矢が立った比嘉愛未さんに注目が集まる。
「今まで頂いてきた役、どれも全て全身全霊で演じてきました。それは今回も変わらず、気持ちは同じです。とにかく、皆さんの日常を明るく照らす作品になるよう最後まで全力で努めてまいります」と、急なオファーを正面から受けて決意表明した比嘉さん。
全身タイツで躍動していた深キョンの代わりとして「艶っぽい演技を求められそう」という意見もあれば、「ベンチャー企業の女性経営者という役は深キョンよりも比嘉さんがぴったり」と下馬評が飛び交う。
『推しの王子様』のキャッチコピーは、「逆マイ・フェア・レディ”」「私があなたを理想の男性に育てる!」。比嘉さんが演じる主人公は新進気鋭のゲーム企業経営者・日高泉美。リリースしたゲームが大ヒットでも私生活はさっぱり。自社で開発したゲーム「ラブ・マイ・ペガサス」に登場する“推し”キャラクター、ケント様に夢中。
ある日、突然目の前に現れた若い男。容姿はケント様にそっくりだが中身はからっぽという五十嵐航(渡邊圭佑)を、「私の理想の男に育てあげよう」と決意。「マイ・フェア・ボーイ」の日々が始まり……という筋立てです。かなりトリッキーですが若い粗野な男性を育て上げていく社長と聞けば……そう、思い出しませんか? NHK朝ドラ『なつぞら』(2019年)のマダム・前島光子の姿を。
朝ドラで比嘉さんが演じた光子は、広瀬すず演じる主役・なつの「新宿の母」とも言える包容力とオーラを放っていました。彫りが深くて目が大きくてエキゾチック。凜とした風情で登場したマダムの姿は忘れられません。芸術に理解があり若い芸術家を応援する度量の大きい光子がハマり役だった比嘉さんですから、「マイ・フェア・ジェントルマン」を実践していく社長役も期待できそう。
過去を紐解けば、比嘉さんはモデルとして出発しNHK朝ドラ『どんど晴れ』(2007年)のオーディションで主役に選ばれドラマデビューした正統派。演技経験を重ねて今35才と円熟期に。『コード・ブルー』シリーズなどでも人気ですが、自立した強い意志を持つきりっとした雰囲気を出すのがうまい。