非法治国家で囚われの身となっていた同僚の3年ぶりの復職。その反応は意外にも“凱旋祝いムード”ではなかったようだ。舞台となっているのは伊藤忠商事だ。
「中国でスパイ容疑をかけられて拘束されていた社員が戻ってきたんです。40代の男性社員ですが、別の部署の社員は名前も知りませんし、社内でも特に復帰に関する人事の告知はありませんでした」(社員)
男性社員は2018年2月に中国・広東省で国家安全当局に拘束され、中国刑法の「国家の安全に危害を与えた罪」で懲役3年の実刑判決を受け、今年2月に刑期満了で出所した。
「日本国内では一般的と言える情報収集を行なっていたところ、中国の国内法に抵触したようです。とにかく無事に帰ってきてホッとしています」
と伊藤忠の広報部は説明するが、社の任務中に身柄を拘束され、異国に3年も“抑留”されていたのになぜ社内は“冷めた空気”なのだろう。
「うちは中国の国有企業・中信集団に巨額の出資をしていて、総合商社でも特に対中ビジネスに注力しています。ほとんどの社員が中国への出張を経験していますし、大事な取引先。可哀想ですが“下手を打った人”と見られてしまっている面もあるようです」(前出・社員)
中国に詳しいジャーナリストの富坂聰氏が解説する。
「海外駐在の商社マンは、地元の有力者や政治家など色々な人と交流を持ちます。その過程で何らかの機密情報に触れてしまった可能性がありますが、出所後もスパイ疑惑が尾を引くことはない。
同じく過去に拘束された人で、解放された後に日中を往来している人もいますからね。今回の社員も一度捕まっている分、慎重になるでしょうし、本人の希望次第ですが、対中ビジネスに携わることに問題はないでしょう」