「僕らは義足メーカーではない」──そう語るのはXiborgで代表取締役を務める義足エンジニアの遠藤謙さんだ。「選手を速くすることに魅力を感じて、F1チームのイメージで開発している」そうだ。選手には身体能力の高さだけでなくテクノロジーへの理解も必要だという。
2008年の北京パラリンピックで南アフリカ共和国のオスカー・ピストリウス選手が活躍する姿に刺激を受け、2012年から競技用の義足を開発。パラアスリートとチームを組み、身体的特徴や走り方にマッチした製品を生み出した。2016年のリオパラリンピックでは陸上100メートルのアジア・日本新記録を打ち出している。
「競技用義足でパラアスリートが速く走ることは、社会的にも意義があることだと思っています。なぜならテクノロジーを活用することで健常者と障害者の境目をなくし、世間の見方を変えていくことができる。場合によっては障害者の方が有利なこともあるかもしれない。スポーツはそうした考えをエンタテインメントとして広めていくことができますよね」(遠藤さん)
パラアスリートだけでなく、障害を持つ子供たちが公園や運動会で気軽に走れる社会が理想だという。「健常者の世界記録を上回る義足アスリートの誕生を夢見ています」と語る遠藤さん。誰でも足が速くなれる社会を目指している。
※週刊ポスト2021年7月16・23日号