昭和49年に放送が始まり、スペシャル版も含めると約30年にわたって放送されたホームドラマ『寺内貫太郎一家』(TBS系)。寺内一家のお手伝いさん、ミヨコ役を演じた女優の浅田美代子(65才)は当時をこう振り返る。
「休憩時間はみんなで一緒にお弁当を食べながら、試写を見るんです。私はいつも、“おばあちゃん”の隣。亜星さん、とん平さん、バンジュンさん、由利徹さんたち4人組の掛け合いが始まると、みんな大爆笑。私にとって大切な、思い入れのある作品です」
寺内一家の頑固おやじ・貫太郎を演じた小林亜星さん(享年88)が、5月30日に心不全で息を引き取ったが、今でもその姿が目に焼き付いている人は多いはずだ。
「放送時は生まれてもいなかった平成生まれの人たちも、再放送を見て笑ったり泣いたりしたと言ってくれる人が多い。40年以上たっても色あせず、古くさいと感じずに楽しんでくれるのは何よりうれしいです。だからこそ、希林さんやヒデキに続いて、亜星さんも旅立ってしまって本当に寂しくて……」(浅田)
東京の下町で三代続く老舗の石材店を舞台に、人情味あふれる家族や隣人たちの姿を描いた『寺内貫太郎一家』。ドラマで描かれる家族全員でちゃぶ台を囲んでご飯を食べる姿は、いまでは失われた昭和の情景だ。時代を超えて愛される名作の魅力を、あらためて振り返りたい。
幸せを演じられるのは不幸な人
平均視聴率31.3%。続編や舞台版も作られるほどの人気作品となった『寺内貫太郎一家』。その魅力のひとつは、華やかかつ個性的な出演陣だ。すでに作曲家として活躍していたが、俳優経験はなかった小林亜星さんを主演に、ベテラン女優の故・加藤治子さん、当時アイドルとして人気絶頂だった故・西城秀樹さん、デビュー間もない浅田美代子、故・樹木希林さんら豪華なメンバーがそろった。
このキャスティング、当時の人気者を集める意図かと思いきや、そうではない。長髪だった髪を丸刈り頭にして役作りに臨んだ亜星さんは生前、本誌・女性セブンのインタビューに「私生活が幸せでない人が集まっていた」と語っていた。
「これは演出の故・久世光彦さんの持論なんだけれども、幸せな人を演じるのは不幸せな人がいい。例えば雑巾がけをしていてふと手を止めたときに幸せだなと感じる、という演技がうまいのは、男に振られてどうしようもないっていう人だというんです。
そう言われると、当時は加藤治子さんも離婚するかしないかの頃で、私も家に帰らなくなっちゃっている頃で、希林さんは彼氏(夫の故・内田裕也さん)とうまくいっていなかった。みんなひとつ抱えていたんだよね(笑い)。だからこそああいうホームドラマでいい演技ができたのかもしれんなぁって……」