【著者インタビュー】伊岡瞬氏/『仮面』/KADOKAWA/1925円
伊岡瞬氏の作風は、特に『代償』(2014年)以降“悪”を描く傾向が強くなる。
「僕は『後味が悪い』というのも、一種の褒め言葉と受け止めています」
その後味のよくない話がなぜこれほど読まれるのか、「それは誰もが持つ“真の顔”を描いているからではないでしょうか」という伊岡氏の最新作、その名も『仮面』は、外見や肩書からは窺い知れない人間の本性に迫る、新たな問題作だ。
端緒は西武球場に程近い武蔵野の山中で発見された、東村山のパン屋の妻〈宮崎璃名子〉の白骨化した遺体。実は彼女が夫の旧友と不倫関係にあり、妊娠中だったこと。さらに愛娘を亡くしたその友人〈新田文菜〉も姿を消していることなどが、総勢7人の視点から徐々に語られていくのだが、実は「何が起きているのか、途中までよくわからない」のも伊岡作品の特徴の一つ。それでいてこの禍々しく、どこかザラついた空気感を、私たちが嫌というほど知っているのも確かなのだ。
「『代償』を書く前のことです。自分の作品にさらに何が必要なのかを考えてみました。ひとつは大どんでん返しのような構造上の大仕掛け。そして際だったキャラクター。最後に、これまで描かれなかったような“悪”です。ならば、読んでいる途中で本を投げ捨てたくなるような、徹底した“悪”の存在を描こうと思ったのが、転換点だったかもしれません。
悪人でなくとも、外面と中身がまったく同じという人はいないでしょう。わかりやすい例でいえば、ネットで匿名性を獲得した途端に悪意をむき出しにする人など。今回は、仮面性がより際立ちやすい、テレビ業界を舞台にしようと考えました」
視点は璃名子と文菜の他、〈読字障害〉を持つ美形の社会福祉評論家〈三条公彦〉の秘書を務める〈菊井早紀〉や、無名の三条にベストセラーとなる自伝本を書かせ、NBTテレビ『ミッドナイトJ』の曜日レギュラーまでにした名参謀役の〈久保川克典〉。『本性』(2018年)の最終章で高円寺北署に転任となった刑事〈宮下真人〉とその新たな相棒〈小野田静〉巡査部長。
そしてテレビ業界の暗部に切り込む『週刊潮流』記者〈小松崎真由子〉の計7人。相変わらず大食漢な宮下&クールな小野田の新コンビ結成はともかく、璃名子の死と文菜の失踪がどう繋がり、イケメン評論家がどう絡むかなど、一切の紹介を拒むほど緊密な構造を持つクライムミステリーだ。