作曲家の小林亜星さん(享年88)が、5月30日に心不全で息を引き取った。俳優としての一面もあった亜星さんの代表作といえば、ホームドラマ『寺内貫太郎一家』(TBS系)だ。昭和49年に放送が始まり、スペシャル版も含めると約30年にわたって放送された。
亜星さんは、その寺内一家の頑固おやじ・貫太郎を演じた。寺内一家のお手伝いさん、ミヨコ役を演じた女優の浅田美代子(65才)は「(樹木)希林さんやヒデキ(西城秀樹)に続いて、亜星さんも旅立ってしまって本当に寂しくて……」と語る。
伝説のドラマが作られた現場は、ドラマと同じか、それ以上に「家族的」だった。浅田が言う。
「当時は実家からスタジオに通っていたのですが、両親よりも貫太郎一家といる時間の方が長かった(笑い)。撮影と稽古が週に5日あって、撮影日には毎朝9時にその日の撮影者全員が集合します。だから出番が被らない演者さんとも、現場で挨拶をして顔を合わせている状態でした。最近のドラマでは、打ち上げで“はじめまして”の人もいます。いまの方が効率はいいのでしょうが、貫太郎一家の一体感も忘れられません」
家庭的で温かい現場だったが、求められる演技のレベルは高かった。
「久世(演出の故・久世光彦)さんには何度も『形で芝居をするな』と言われました。ト書きに《ミヨコ泣く》と書いてあったシーンで、『泣こうとする芝居をするな』と叱られたことは、いまでもよく思い出します。『気持ちがあれば通じるから、涙は出なくてもいい』とおっしゃるけれど、なかなかうまくできない。そのうえ、台本にないアドリブも頻繁に入る。希林さんなんて、急にスカートをめくってくるので、びっくりです。素で『おばあちゃん!』ってリアクションしていました(笑い)」(浅田)
苦しくも得がたい経験によって、女優として大きく成長したと浅田は言葉を続ける。
「貫太郎で学んだことはほかの作品にも生きています。たとえば『釣りバカ日誌』でハマちゃんの妻の役をいただいたときに、『アドリブの多い現場だけど大丈夫ですか?』と聞かれましたが、私にとってはそれが当たり前。ハマちゃんやスーさんがどんな無茶ぶりをしても、“ミヨちゃん”の経験を糧に応えることができました」