暑い夏には、涼しい部屋の中で読書でも楽しみたいところ。この夏に読みたい注目の新刊4冊を紹介します。
『保身 積水ハウス、クーデターの深層』
藤岡雅/KADOKAWA/2090円
巨額詐欺事件の社外調査報告書を公表するとした会長が、逆に取締役会で追放される。本書はワイドショーが追いかけなかった地面師詐欺事件のその後を、報告書や議事録、関係者への取材で明らかにする。人為的ミスだらけの事件、会長失脚の瞬間、事件の責任者である社長の会長昇格、企業体質を変えようとした株主提案の否決。経済ルポってこんなに面白かったのかと開眼。
『古くて素敵なクラシック・レコードたち』
村上春樹/文藝春秋/2530円
クラシックLPのジャケットがこんなに楽しかったとは。村上さんちの棚からやってきた486枚のカラー写真はカタログ的に眺めるだけでも楽しい。1曲につき3枚以上のLPを紹介するが、中には8枚紹介する曲も。中古レコード店で1ドルとか50円だと、つい購入してしまうのだとか。盤を磨く、機器を整備するなど、手をかけると音質がよくなるのもデジタルにはない愉しみ。
『小学館の図鑑NEO 深海生物 DVDつき』
小学館/2200円
深海とは水深200メートル以深の領域のこと。図鑑で魚類や無脊椎動物といった区分や深海生物の特徴を学ぶ。掲載されているのは日本で見られる種が中心だ。付録のDVDではドラえもんとのび太が瞬間移動潜水艦に乗って深海を案内してくれる。「アクアマリンふくしま」で会える深海生物が、羅臼の漁師さんの協力で知床の深海から採集されていることを伝える映像も興味深い。
『対岸の家事』
朱野帰子/講談社文庫/924円
近年は共働きが増え、ママ友もできにくいのだとか。専業主婦の孤立無援、勤労ママの絶体絶命。子育て中の女性達が日々すり減っていく様子を、ほんわかしたキャラクターの主婦詩穂の目を通し、地域の交流ドラマとして描く。外資系勤務の妻に代わり、育児休業中の東大卒国交省官僚中谷のキャラが結構な“悪役”だが、彼の合理馬鹿ぶりは更生の余地があってどこか憎めない。
文/温水ゆかり
※女性セブン2021年7月29日・8月5日号