7月12日に決勝を終え、PK戦でイタリアが優勝したサッカーEuro2020の試合会場では、マスクをしていない観客たちが、大声で試合に一喜一憂して楽しんでいた。ワクチン摂取率が高いために実現となったことを知り、ワクチンさえ打てれば辛抱だらけの生活から脱出できると思った日本の人も多いはずだ。ライターの森鷹久氏が、1回目のワクチン接種を終えて、やりたいことをやり始めた人たちについてレポートする。
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渋谷や新宿、そして池袋など、緊急事態宣言下の繁華街で酒を飲み、大騒ぎする若者の姿をマスコミが連日報じている。だが、現実には若者以外の「酒飲み」も、続々居酒屋など酒の飲める飲食店に復帰している。
「一年以上、外で飲むことはありませんでした。でも、緊急事態宣言もこれで四度目ですよ? 慣れもあるだろうし、何より『もう打ってる』という安心感が、私をここに来させたんですよ」
仕事終わりの生ビールを片手に、赤ら顔で筆者に力説したのは、都内の大手ゼネコン社員・富田雄一さん(仮名・30代)。
富田さんは6月、会社の職域接種で1回目のワクチン摂取を終え、7月の下旬には2回目の摂取も控えている。そして、富田さん自身も、2回の接種を終えないとワクチンの効果が薄い、ということを当然知っている。にもかかわらず「もう打ってる」と安心してしまうのは、1回は接種したことが過信、コロナ対策はできているという思い込みになっているのかもしれないと漏らす。
「実際1回は打ってるから……という自信というか。外で酒を飲みたいという欲求を満たすための方便かもしれませんが、2回目を打っても本当は、即、外で飲めるというわけでもないし。それなら、もう今飲んじゃうか、みたいな」(富田さん)
富田さんだけではない。自分と同じように1回目の接種を終えた同僚に加え、居酒屋で知り合った職域接種で1回目の接種を終えたという飲み仲間も、やはり夜の街を飲み歩いているといい、富田さんは「自重したり、考え直す機会もほとんどなくなった」と呟く。
「1回打ったからもう安心だ、ということではないのは分かっていますが、打ってない人と比べたら、そりゃ全然違うんじゃないですか?」
都内の繁華街で居酒屋を営む佐伯卓郎さん(仮名・50代)は、妻が働く大手企業の職域接種で家族にもワクチン接種を受けられるチャンスがあり、1回目の接種を終えている。一歩進めたとホッとしていたのもつかの間、四度目の緊急事態宣言が決まった。またお客さんに窮屈な思いをさせるのかと思っていたところ、店を訪れていたワクチン接種済みの馴染み客から「ワクチン打ってる人にはお酒を出して」と言われた。それをきっかけに、ワクチンを1回でも打っている客限定で、緊急事態宣言下でも酒の提供を行っている。
「政府が金融機関に、酒を出している店とは取引をするな、なんて言っていたでしょう? あれで開き直りました。すぐに撤回して、今度は、ワクチン打ってる人には酒を出すことも検討して、と言い出した。店も業界も客も国民もみんな我慢の限界なんです。繁華街では、なし崩し的に酒を提供する店が拡大していますが、うちはワクチンを接種しているかどうか、これで判断します」(富田さん)