【著者インタビュー】五十嵐律人氏/『原因において自由な物語』/講談社/1815円
東北大学法学部を卒業後、法科大学院を経て司法試験に合格。が、司法修習には進まずに執筆を続け、昨年第62回メフィスト賞受賞作『法廷遊戯』でデビュー。その後司法修習も無事終え、作家兼弁護士となった。
「僕が法学部に進んだのも、担任などに勧められるまま“なんとなく”決めたことで、元々弁護士志望だったわけではなく、森博嗣さんや伊坂幸太郎さんみたいな作家になりたかったので」
そんなエンタメ界注目の新星・五十嵐律人氏(31)の早くも第3作『原因において自由な物語』は、表題の元になった法理論からして興味深い。
例えば人気推理作家として活躍する二階堂紡季こと〈市川紡季〉に、弁護士で大学以来の恋人の〈遊佐想護〉はこう説明している。〈刑法の有名な理論に、「原因において自由な行為」っていうのがあるんだ〉〈自由な意思決定に基づく原因行為が存在する限り、それによって生じた結果行為の責任も負わなければならない〉〈かっこいい名前の理論に外れはない。そういう法則があってさ〉──。
その一見端正な理論が、複雑で理不尽な現実を映し、希望と絶望を両方宿すことを、読者はこの展開の一切読めない物語の衝撃と共に初めて知ることになろう。
まずは本作の構成から。〈彼女を殺すために、僕は廃病院の敷地に足を踏み入れた〉という不穏な一文で始まるプロローグと、AIが割り出した〈顔面偏差値〉に基づくマッチングアプリ〈故意恋〉が校内の序列や空気を牛耳る第一章「ルックスコア」は、2025年の私立北川高校での出来事。
そして大学在学中に本格推理作家としてデビューし、最近もヒット作を連発する二階堂紡季が新作『原因において自由な物語』に挑む第二章「W-riter」は作家サイドの出来事と、本作では2つの時空が並走。
前者に登場する北高写真部2年の〈佐渡琢也〉や〈永誓沙耶〉〈朝比奈憂〉が二階堂紡季たちの時空にどう関係するのかということが中盤で明かされる。この複雑な構成の物語を五十嵐氏はプロットなしに書き、創作方法も独特だ。
「今作だと、『物語が途中でなくなる』というコピーがまず浮かんで、その続きを主人公の作家がどう埋めていくかを書こうと決めた。でも、そういう小説自体は、他にもあるんですよ。その虚と実をもし反転させたらどうかとか、より新鮮な形を探るうち、プロットが頭の中に出来ていった。
ただその時点では冒頭の僕が誰をどう殺すのかとか、謎に対する答えは僕も持ってなくて、半分まで書いて考えてまた書く、みたいな。それでもこの謎は魅力的だという自信はあったので、廃病院での2つの転落と、なぜそれを物語にしたのかという謎を何とか着地させる術を探っていきました」