昨年、日本中で品薄となり、争奪戦が繰り広げられた「マスク」。息苦しいし、暑いし、肌荒れの原因になるからと、当時はつけることに抵抗を感じる人が多かった。しかし、約1年半が経過したいまでは、“感染症対策”という視点に限らず、マスクを外したがらない人が増えていた──。
熱中症のリスクも指摘されているマスクだが、ワクチンの接種が進めば、着用が緩和される見通しだ。すでにイギリスやアメリカなどの大規模スポーツイベントでは、大勢の観客が詰め掛け「ノーマスク」「ノーディスタンス」を楽しんでいる姿が報道され、「早く日本もこうなってほしい」と願っている人もいるだろう。
しかし一方で、「ノーマスク」を恐れる人たちが増えているという。コロナ禍に転職した大川美奈さん(仮名・33才)も、「憂うつ」と話す。
「入社して10日近く経つのですが、みんなマスクで顔がわからず、名前と顔が一致しなくて本当に苦労しています。
先日は、親睦会の意味も込めて直属の男性の上司とランチに行ったのですが、入社して初めてマスクを外した上司の顔を見て、『こんなにおじさんだったの!?』と衝撃を受け、戸惑ってしまいました。
相手も私の顔を見て同じことを感じているんだろうなと思うと、食事中も目が合わせられず、リラックスして会話することができませんでした。これからワクチンの接種が進んでマスクを外す風潮になったら、私も社内の人たちから『意外とブス』とか『意外と老けてる』などと思われるのかもしれませんね……」
このケースを受け、精神科医の片田珠美さんが話す。
「昔から、“マスクをつけていると美人度が3割増しになる”といわれてきたほど、マスクは顔の印象を変えます。相手の顔がはっきりとわからないコロナ禍の約1年半、私たちは『仮面舞踏会』をやっているようなものなのです」
“仮面”をつけることが、安心感につながる人もいる。精神科医の和田秀樹さんが言う。
「マスクは、“自分が何者であるか”を隠すことができる。コミュニケーションが苦手な人にとっては、とても便利な道具です」
感染症対策以上の効果をマスクに求める人たちが、コロナ禍によって増加しているが、いずれ多くの人がマスクを手放す日はやって来る。「マスクを取るのが怖い」という“コロナ被害”が、すぐそこまで迫っているのだ。
※女性セブン2021年8月12日号