1年の延期を経て開催にこぎつけた東京五輪。続々とメダリストが誕生して沸いているが、過去の五輪で活躍した日本選手の中には、表舞台から消えたままの「英雄」もいる。記憶に刻まれたあのメダリストは今──。(文中敬称略)
「引退後、第二のメダリストを育成する気は全くなかったですね」。こう話すのは、1972年のミュンヘン五輪で女子水泳のヒロインとなった青木まゆみ(100mバタフライ)。競泳女子に前畑秀子(1936年ベルリン)以来の金メダルをもたらし、ショートヘアでがっちりした体型から「金太郎」の愛称で親しまれた。
1973年に引退すると教員免許を取得し、兵庫県内の高校で保健体育の教員となった。
「早々に引退したのは、『花が咲いているうちに』との思いからで、水泳に未練は全くありませんでした。五輪後、生活が大きく変わったわけでもなく、『メダルを取ったから何なん?』という感じでした。猛練習を続ける気もなく、迷わず幼い頃から憧れていた教員の道を選びました」
その後はマスコミの取材を避け、体育教師としての人生をまっとうした。水泳部も指導したが、彼女が金メダリストと知らない生徒もいたという。
「レースに勝つことよりも挨拶や感謝をすることを指導しました。60歳の定年後は再雇用で教師として働きましたが、2019年に退職して今はのんびりしています。今回の東京五輪も特に見たい競技はないですね」
と、あくまでマイペース。“金メダル”に縛られない生き方を選んだ。
※週刊ポスト2021年8月13日号