作曲家・筒美京平さんは、多くのアーティストに名曲を提供してきた。C-C-Bの『Romanticが止まらない』も筒美作品の一つだ。ドラマー兼ボーカルとして同曲でブレイクした笠浩二が、筒美さんへの思いを語った。
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「ココナッツボーイズ」というバンド名でデビューしたのは1983年。プロデューサーは筒美京平先生の実弟・渡辺忠孝さんでした。コンセプトは“和製ビーチ・ボーイズでシングルとアルバムを2枚ずつ出しましたが、ヒットに至らず。次も売れなかったら解散か? という時に出合った曲が『Romanticが止まらない』(1985年)でした。
渡辺さんは第3弾シングルを作るにあたって、お兄さんに作曲を依頼。筒美先生は松本隆先生の作詞を条件に引き受けてくれたそうです。僕らも心機一転、髪をカラフルに染めて、バンド名を「C-C-B」に変えました。当時、新しかったシモンズ社の電子ドラムを僕が買ったのも同じ頃です。
船山基紀さんのアレンジを聴いた時は「この曲、絶対に売れる!」と確信しました。でもその後が大変だった。それまで歌はコーラスくらいしかやったことがなかった僕がなぜかメインボーカルに指名されて猛特訓が始まったんです。あとで知ったことですが、それは筒美先生の指定でした。先生は僕の高い声を気に入ってくれていたんですね。
レコーディングでは緊張してメロディを間違えてしまったんですが、先生は「君の歌い方でいいんだから、堂々と歌いなさい」と。嬉しかったです。それまでは自己評価の低い人間でしたが、先生の言葉がきっかけで自信を持てるようになりました。
ドラマのタイアップもついた『Romantic~』はバンドにとって初のベストテン入り。その頃、先生から「3位になったら、常にその位置をキープできるよう頑張りなさい」と言われたことも忘れられません。その後も多くのヒット曲を書いていただきましたが、先生の曲はどれも日本語がきちんと伝わってくる。それは日本人のリズム感や感性を、先生が知り尽くしていたからだと思っています。
【プロフィール】
笠浩二(りゅう・こうじ)/1962年生まれ、福岡県出身。1985年、C-C-Bのドラマー兼ボーカルとして『Romanticが止まらない』が大ヒット。1989年のバンド解散後はソロとして活動中。
取材・文/濱口英樹
※週刊ポスト2021年8月13日号