【著者インタビュー】燃え殻さん/『これはただの夏』/新潮社/1595円
【本の内容】
《夏から秋に変わっていく、季節のグラデーションが苦手だった。あの物哀しさにはどうしても慣れない》という主人公のボクは、テレビ番組の美術制作をする最底辺の会社に勤めている。そんなボクの仕事仲間のディレクターの大関、そして知人の結婚式で知り合った優香、同じマンションに母親とふたりで暮らす10歳の明菜との《特別ではない夏の数日間の話》。誰にでもあるだろう、忘れられない出会いと別れがいつまでも胸に残る。
初めての小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』がベストセラーになった燃え殻さん。
新作の『これはただの夏』では、主人公のボクと、知人の結婚式で知り合った魅力的な優香や、同じマンションに母親とふたりで暮らす明菜という少女、仕事仲間のテレビ局員大関との、出会いと別れを描く。
「前作は初めての小説でしたから、どこか力が入って、カシャ、カシャって写真を撮る感じになっていた気がするんです。初めてボクの本を読む人にはそのほうが読みやすかったと思うんですけど、今回はできる限り、情景が映像で流れていく感じにしたかった。出てくる人物も、風景も、風も、動く小説を書こうと思いました」
意図した通り、『これはただの夏』の語りはとてもなめらかで、動きがある。人も景色も、ひとつところにとどまらず、次の瞬間には消える。だからこそ、うつろうものの大切さが胸に沁み、別れのせつなさ以上に、出会ったことの幸福がいつまでも記憶に残る。
「ボクは原稿を音読しながら書くんですけど、読みながらつまると、なんでだろうと思って、句点の場所を変えたり、漢字をひらがなにしたりして、できる限り、つまるところをなくしていきます。
小説の中で何か大事件が起きるわけでもないので、自分の人生にも、もしかしたらこんなことがあったんじゃないか。そんなふうに思って読んでもらえるといいなと。前作は、少し押しつけてしまったかなと感じるので」
もともと、小説を書こうと思っていたわけではない。美術制作会社に勤務しながらTwitterに何気ない日々のツイートを投稿、その呟きの面白さがいろいろな人の目に留まり、電子メディアの「cakes」で連載が始まったのが、「ボクたちはみんな大人になれなかった」だった。