全国で暴力団排除条例(暴排条例)が施行されて、この10月で丸10年となる。条例により暴力団の弱体化が伝えられてきた中、その間も反社会的人物を取材し続けてきた2人が初めてとなる対談を行った。
代表作『闇金ウシジマくん』に続き、ヤクザや半グレを顧客とする弁護士を描く『九条の大罪』が大ヒット中の漫画家・真鍋昌平氏と、密漁の実態を描いた衝撃ルポ『サカナとヤクザ』が文庫化された暴力団取材のプロ・鈴木智彦氏。反社を取材対象とする2人が、お互いの取材手法や作品化する上での注意点などを語り合った。
鈴木:真鍋さんの漫画は暴力団事務所でいつも目にしてます。最新刊はたいていトイレに常備されているのでそこで読んでます(笑)。抗争中の暴力団も大絶賛していた。これで勉強しろと渡されます。
真鍋:廉価版のやつですよね? コンビニでカップラーメンと一緒に買われているらしいんですよ、お湯入れたラーメンの上に置くのにちょうどいいんだって(笑)。
鈴木:いえ、かなり以前からベストセラーで、部屋住みの待機部屋に全巻揃ってたりしますよ。暴力団関係者から直接取材されるんですよね?
真鍋:取材の一環でお会いする場面はあります。俺の自伝を漫画にしてくれとか頼まれます。全40巻くらいになるぞって言われたり(笑)。
鈴木:暴力団のみならず「俺の人生は波瀾万丈で小説になる」と自慢する人はだいたい並です。
真鍋:鈴木さんは相手の言っていることの裏取りはどうやってするんですか?
鈴木:抗争事件だったら事実関係は新聞報道を追いかけますが、加害者側とパイプがあるか、被害者側と親しいかは運です。どちらにも当てたい(取材したい)けど、なかなかそうはいかない。
真鍋:やられた側はあんまり書かれたくないじゃないですか。
鈴木:表面上は負けて勝つ喧嘩もあるんです。抗争は加害され報復する暴力のラリーなので、部外者が簡単に勝敗を判定できない。喧嘩の勝敗は、とどのつまり、その後繁栄した側が勝ちなんです。今の山口組分裂抗争はどちらも組織力を削がれて縮小するしかないので、勝者のいない抗争になる。
真鍋:そういうものなんですか。
鈴木:作品を読んでいると、真鍋さんは取材を大事にするイメージがあります。