世界であれほど威力を発揮した「#MeToo」も、日本では散発的な話題になるだけで、社会的なムーブメントには結びつかず、相変わらずハラスメント加害者は謝罪も反省もしないことがほとんどだ。しかし東京五輪をきっかけに、過去の加害であっても、それに対する誠実な対応と態度を重ねることが求められるようになるかもしれない。俳人で著作家の日野百草氏が、水面下ですすむ、コンプライアンスがより重視されているテレビ業界での芸人リストラ事情について聞いた。
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「このオリンピックをきっかけに、芸人のリストラが進むかもしれません」
渋谷、オリンピックの盛り上がりと呼応するかのように押し寄せる人波を眺めながら、キー局子会社役員のA氏が喫茶店のアクリル板越しに発した言葉は衝撃的だった。本稿、「A氏という書き方は嫌だ」と筆者はゴネたのだが、仮名であっても連想によるハレーションは避けたい、固有名詞は何であれ遠慮する、とのことでA氏とさせていただく。
「とにかく芸人の数が多い。椅子とりゲームになっています」
確かに、昨今の芸人はバラエティや情報番組、ワイドショーに出ずっぱり。スポットで呼ぶ専門家と局アナを除けば番組ゲストからひな壇まで全員芸人というワイドショーもある。時事ネタはもちろん、ときに政治批判も展開する。
「それなりのキャリアの人気芸人でもローカルやネットテレビに行くしかない場合もあります。でもローカルやネットテレビに残ればまだマシです」
キー局とその他ではギャラがまったく違う。ローカル局と呼ばれる地方局やネットテレビの単発ばかりでは華やかな芸能人、という生活には程遠いが、テレビに出ている芸人というエクスキューズにはなる。
「コロナもありますし、舞台しかなくなった芸人なんか大半はバイト生活でしょう。ユーチューブ一本で成功できる芸人も一握りです。あれはあれで難しい」
メディアでまったく露出のなくなった芸人には厳しい現実が待っている。視聴者がいくらテレビなんかと嫌っても、芸人が稼ぐには、メジャーでいるにはテレビに出るしかない。インターネットテレビやラジオという手段もあるだろうが、それはテレビ出演を確保しているからこその余録であり、ましてそれすらなくなることは「落ちる」ことを意味する。舞台だけでは食えないし、知名度は大幅に下がる。コロナ禍で営業もままならない。
「どんなに強がってみせてもキー局からお呼びが掛かって断る芸人はいませんし、そもそも事務所が許しません。視聴者の方々が思う以上に、キー局のテレビで見ない日はないって状態の芸人は凄いんです。豪邸だって高級車だって手に入る。日本中が羨む美人と結婚できたりする。だからこそ、その椅子とりゲームに意地でも残ろうとする。下衆と思うかもしれませんが、好きなことで成功するってそういうことです。残酷なんです」