中国の共産革命にも大きな影響を与えた文豪の魯迅ら中国の文化人と深い親交があったことで知られる内山完造氏が昭和初期の中国・上海で開業した「内山書店」が7月、天津で復活したことが明らかになった。1945年9月、上海の内山書店が閉鎖されてから、中国本土での書店復活は実に76年ぶりとなる。中国共産党機関紙「人民日報」などが報じた。
内山書店を復活させたのは天津市在住のドキュメンタリー監督、趙奇氏だ。
内山書店はもともと1917年 (大正 6年)、完造氏の妻、美喜さんが上海の自宅の玄関に小さな本屋を開いたのがきっかけで、その後、上海在住の日本人が日本の雑誌や本を買うようになり、店舗も拡大。日本に留学経験がある魯迅やのちに中国の文化相となる郭沫若ら中国の文化人が出入りするようになり、日中の文化人のサロン的な存在となった。
そのような内山書店の歴史をドキュメンタリー映画として制作しようとした趙氏が2013年、東京・神田の内山書店の4代目店主の内山深氏を訪ねたことが、内山書店復活のきっかけとなった。
深氏らが趙氏とともに完造氏の墓参りをした際、「祖父(完造氏)らの夢は中国で再び内山書店を開店させることだった」と語ったという。
これを聞いた趙氏は、その後、天津市党委員会宣伝部とたびたび話し合いの場を持った結果、市政府は天津出版伝媒集団が内山書店の開店と運営などを担当することを承認。深氏らは2020年、「内山書店」の商標を中国で独占的に使用することを同集団に認め、8月には「天津内山書店有限公司」が成立した。
趙氏は同公司総経理(社長)に就任。天津の内山書店には現在、6000種類以上の本が並び、そのうち、日中文化交流関連の本が2000種類以上を占めるという。
趙氏は取材に対して、「日本文学の作品では、村上春樹や夏目漱石の作品のほか、樋口一葉や永井荷風などの作品も選んだ。文学史において、これらの作家も重要な地位を占めている。その他、太宰治のベストセラー作品、さらに、その小説『惜別』も選んだ」と語っている。
魯迅の孫で、「魯迅文化基金会」の秘書長を務める周令飛さんは、「魯迅は上海にいた頃、ほとんど毎日、内山書店に通い、内山完造と固い友情を築いた。内山書店が天津で復活したことで、私と父の夢を叶えることができた」と述べて、感慨深げだったという。