まだまだ暑いこの季節。冷房の効いた室内で読書を楽しんでみるのもいいのでは? そこで今年7月に発表された芥川賞・直木賞の受賞作4作品を紹介します。
◆芥川賞受賞作
『彼岸花が咲く島』
李琴峰/文藝春秋/1925円
芥川賞は、清新な才能を言祝ぐ新人賞。今期は対照的な2作が受賞した。例えるなら“美人さんとお転婆さん”。本書は後者だ。南の島に漂着した記憶喪失の少女。助けてくれた島の娘游娜と共にノロを目指す。両者は使用言語が微妙に違う。この設定には日本在住の台湾人として向き合う地政学や、日本のソフトファシズムを憂う心情が見える。喧嘩上手の作家になりそうで、楽しみ。
『貝に続く場所にて』
石沢麻依/講談社/1540円
ドイツ留学中の「私」は日本の知人を大学都市ゲッティンゲンで迎える。彼とは津波の日以来会っていない。9年の空白を超え仙台からドイツまでやってきたお盆の霊……。聖女と同じ名のドイツ人女性達との交流、中断した夏目漱石の『夢十夜』の読書会、ふいに顔を出す寺田氏(漱石の弟子寺田寅彦)。表象、象徴、暗喩や寓意。絵の細部を解読する図像学が小説になったような作。