新型コロナウイルスの感染拡大は続くが、65歳以上のワクチン接種は進んでいる。8月3日時点で1回目を接種した65歳以上は86%、2回目接種は78%に達した。感染した際の重症化リスクは下がってきたが、その一方で、長引く自粛生活によって生活習慣病の症状が悪化する人が目立ってきている。ナビタスクリニック川崎の内科医・谷本哲也医師が指摘する。
「コロナ禍に伴う運動不足や食べ過ぎで体重が増えてしまう患者さんが多い。糖尿病の数値が悪化したり血圧が高くなったりするなど、生活習慣病に関連した数値に問題が見られるようになっています」
明治安田生命が全国約5700人に行なったアンケートでは、50代男性の20%、60代男性の19.8%が「運動不足・食生活の乱れにより体重が増えた」と返答した。
そうしたなか、コロナ禍による医療機関の「受診控え」も広がった。和歌山県が県民5000人を対象に実施したアンケートでは、「コロナ感染が怖いので受診したくない」が20%を超え、「コロナ感染を防ぐため受診を控えている」と回答した人は14.2%に達した。
その結果、懸念されるのが、「多剤併用」の問題が放置されるリスクだ。銀座薬局の代表薬剤師・長澤育弘氏が語る。
「何種類もの薬を処方されて飲んでいる『多剤併用』の大きな問題は、飲み合わせによって薬効が増幅されて効果が強まったり、薬効が打ち消しあってしまうことです。命にかかわる病気は別ですが、一般に6剤以上を服用していると薬のメリットよりリスクが大きくなるとされています」
高齢化が進む日本では病院で複数の科にかかることも多いため、“薬漬け”が指摘されていた。
厚労省の調査(2020年)では65~74歳の15%が7つ以上の薬を処方され、75歳以上では26%となっている。
そうした状況で「受診控え」が生じると、医師の診断や助言が十分に得られないなかで、一度に長期間の薬を処方される。体調の変化などを考慮せずに同量の薬を飲み続ければ、多剤併用によるリスクも増していく。
国もこのリスクを認め、対策に乗り出している。8月1日には、認定された薬局が高齢者の服薬情報を一元管理し、問題があれば医療機関に連絡する「認定薬局」制度がスタートした。多剤処方の是正などを目指す試みだが、医師や薬剤師に言われるだけでなく、患者側もこれまで以上に薬のリスクについて知る必要がある。
そこで参考になるのが、日本老年医学会などが2015年に発表した「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」だ。