阪神・淡路大震災では、関西地域の住民から前兆現象に関する目撃談が多数寄せられた。その中で注目を集めたのが、1週間前の1月9日夕方に震源付近の明石海峡大橋の直上で撮影された、竜巻上の“地震雲”の写真だった。
当時の大阪市立大学教授・弘原海清氏は、前兆現象についての証言を1519例集め、その結果を著書『前兆現象1519!』にまとめた。竜巻雲の写真は著書の表紙にも掲載され、広く知れわたった。
日本地震予知学会会長で、東海大学海洋研究所客員教授の長尾年恭氏が語る。
「証言の内訳は空・大気の異常に関する報告が29%と最も多く、そのうち地震雲に関するものは4割強を占めました。中でも写真の竜巻状の雲に関しては、震源付近から発生した可能性が高く、地震と何らかの関連性がある可能性が示唆されました」
ただし、他にも地震雲に関する証言はインターネット上にあふれており、真偽が疑わしいものも多い。巷間では「飛行機雲のような線状の雲」「層状の雲」「弧状の雲」など様々な説が飛び交っているが、科学的にどう判断されているのか。長尾氏はこう断言する。
「こうした世間で言われる地震雲の情報には、科学的な根拠は一切ありません。地震学者と気象学者の間では、現在のところ地震と雲の発生に関する関連はないと考えられています。
阪神・淡路大震災の竜巻雲のように、何らかの関連性がある可能性が高いと考えられる現象は観測されていますが、ただちに人々が『こんな雲が出ているから避難しなければ』と結び付けられるほど解明された雲はない、ということです」
ちなみに、阪神・淡路大震災では1週間前の竜巻雲のほか、当日早朝に「空が明るくなった」との発光現象の証言も多数集まった。
「こちらは地震との関連性が高いと考えられており、さらなる解明が待たれます」(長尾氏)
※週刊ポスト2021年8月20日号