国内

「飯塚被告へ」とブログを綴った池袋暴走事故遺族・松永拓也さんが語る真意

インタビューに応えてくれた松永拓也さん(撮影時以外はマスク着用で感染防止対策を行い取材)。

インタビューに応えてくれた松永拓也さん(撮影時以外はマスク着用で感染防止対策を行い取材)。

 2019年の池袋暴走事故で、妻・真菜さん(31才)と長女・莉子ちゃん(3才)と失った松永拓也さんが、「飯塚幸三被告へ」というタイトルで綴ったブログが話題を呼んでいる。

「一審の判決が出たら、もう辞めにしませんか」

 飯塚幸三被告(90)に向けた松永さんからの率直な願いがそこには書かれている。

 東京地裁で7月15日に行われた第9回裁判で、検察からは飯塚被告に禁錮7年が求刑された。9月2日にはその判決が出る。原告も被告もこの判決に不服がある場合は、2週間以内に高等裁判所に控訴することができる。

「アクセルとブレーキを踏み間違えた記憶はない」と無罪を主張する飯塚被告は、判決によっては控訴する可能性がある。さらに高等裁判所の判決に不服があれば、最高裁判所に上告することもできる。判決を前にしてブログに気持ちを綴った松永拓也さんに、その心情を伺った。

* * *

「自分のブログに書いたことがニュースになるとは思っていなかったので驚きました。加害者は僕のブログを見ていると言っていましたから、伝わればいいなと思って意志を伝えました」(松永さん)。

 飯塚被告は6月に行われた裁判で、「松永さんのブログも最近の新聞記事も読んでフォローしておりますので、(遺族の強い怒りは)十分理解しているつもりです」と述べている。

「前回の裁判から、いえ、もっと言えば裁判が始まってから、ずっともやもやしていました。そのもやもやを言語化しようと思ったんです。ブログに書いてみよう、と書き始めたら、自分でも意外なほど一気に書けました」(以下カッコ内、松永さん)

 裁判では、被害者遺族として厳罰を求める立場で臨んでいるが、ブログでは「こんな悲しい思いをする人を出してはいけない」といった自分の気持ちを素直に表すパーソナルスペースとして使い分けているという松永さん。そのため、このブログも怒りをこめた命令のようなつもりではなく、あくまで願いを綴ったと明かす。

「日本は法治国家で、無罪を主張する権利は尊重しています。三審制で裁判の結果が不服なら控訴できる権利があることも、加害者にとっては自身が裁かれるかどうか重大なことだというのもわかります。でもこれだけの証拠が揃っている中で、争いを続けるのに意味が見いだせないのです」

2018年、七五三の時の真菜さんと莉子ちゃん(松永さん提供)。

2018年、七五三の時の真菜さんと莉子ちゃん(松永さん提供)。

 真菜さんと出会うまでは、「今思えば自分は甘ちゃんというか、自分さえよければいいというような人間だった」と振り返る松永さん。

「僕は腎臓がよくなかったのに、1日にタバコを何箱も吸ったりお酒を飲み歩いて、自暴自棄になってさえいたんです。それが真菜と出会って変わりました」

 真菜さんは、松永さんの腎臓を「治してあげる」と、図書館に通って病気や食事について調べ、ほんとうに治してくれたという。

「小学生の頃から尿検査で引っ掛かっていたのに、結婚してからそれが正常になったんです。食事は健康のことを考えて、魚と取り寄せた無農薬野菜が中心の料理を毎日手作り。僕の身体も心も健全にしてくれました」

 特に好きだったメニューを尋ねると、

「そうですね・・・・・・。どれもおいしかったけれど、カレーでしょうか。スパイスから作る本格的なカレーなんです。でも莉子も食べられるように甘口で。お義母さんから教わった料理のレシピを真菜がまとめたノートが残っていますが、僕は料理が得意ではないので、もうあの味は再現できないですね。

松永さんの体調を考えて、真菜さんは毎日ヘルシーでおいしい料理を作ってくれた。松永さんが特に好きだったスパイスから作る本格的な真菜さんのカレー(松永さん提供)。

松永さんの体調を考えて、真菜さんは毎日ヘルシーでおいしい料理を作ってくれた。松永さんが特に好きだったスパイスから作る本格的な真菜さんのカレー(松永さん提供)。

 ただひとつ、今も冷蔵庫に真菜が作った魚の煮付けが残っているんです。もう食べられないでしょうけど、これで真菜の作ってくれた味が全部なくなってしまうと思うと捨てられないです」

 家事育児も忙しかったはずなのに、真菜さんは愚痴ひとつ言わなかったし、人の悪口を言うのを聞いたことがなかった、と松永さん。

「今でも真菜の欠点が思い浮かびません。真菜は行動で愛を示してくれました。僕は言葉でいつも『愛してる』『ありがとう』と伝えていました。言わない日はありませんでした。真菜は『本当にそう思ってるの? 言えばいいと思ってない?』なんて照れたように冗談っぽく言うこともありましたが、『愛してる』って返してくれることもありました。伝えていてよかったと思います。一生分は言えたかもしれません。死ぬまで一緒にいて、言い続けたかったけれど……」

関連記事

トピックス

幕内優勝力士に贈られる福島県知事賞で米1トンが
「令和のコメ不足」の最中でも“優勝したら米1トン”! 大相撲優勝力士に贈られる副賞のコメが消費される驚異のスピード
NEWSポストセブン
愛子さま
愛子さま、日赤への“出社”にこだわる背景に“悠仁さまへの配慮” 「将来の天皇」をめぐって不必要に比較されることを避けたい意向か
女性セブン
「学園祭の女王」の異名を取った田中美奈子(写真/ロケットパンチ)
田中美奈子が語る“学園祭の女王”時代 東大生の印象について「コミュニケーションスキルが高く、キラキラ輝いていた」
週刊ポスト
羽生結弦(時事通信フォト)の元妻・末延麻裕子さん(Facebookより)
【“なかった”ことに】羽生結弦の元妻「消された出会いのきっかけ」に込めた覚悟
NEWSポストセブン
目覚ましテレビの人気コーナー「きょうのわんこ」(HPより)
『めざましテレビ』名物コーナー「きょうのわんこ」出演犬が“撮影後に謎の急死”のSNS投稿が拡散 疑問の声や誹謗中傷が飛び交う事態に
女性セブン
シャトレーゼのケーキを提供している疑惑のカフェ(シャトレーゼHPより)
【無許可でケーキを提供か】疑惑の京都人気観光地のカフェ、中国人系オーナーが運営か シャトレーゼ側は「弊社のブランドを著しく傷つける」とコメント 内偵調査経て「弊社の製品で間違いない」
NEWSポストセブン
神田正輝の卒業までに中丸の復帰は間に合うのか(右・Instagramより)
《神田正輝『旅サラダ』残り2週間》謹慎中のKAT-TUN中丸雄一、番組復帰の予定なしで「卒業回出演ピンチ」レギュラー降板の危機も
NEWSポストセブン
小泉進次郎氏・滝川クリステル夫妻の出産祝いが永田町で話題
小泉進次郎夫妻のベテラン議員への“出産祝い”が永田町で話題 中身は「長男が着ていたとみられるベビー服や使用感のあるよだれかけ」、フランス流のエコな発想か
女性セブン
稽古は2部制。午前中は器具を使って敏捷性などを鍛える瞬発系トレーニングを行なう。将来的には専任コーチをつけたいという
元関脇・嘉風の中村親方、角界の慣習にとらわれない部屋運営と指導法 笑い声が飛び交う稽古は週休2日制「親方の威厳で縛らず、信頼で縛りたい」
週刊ポスト
柏木由紀と交際中のすがちゃん最高No. 1
《柏木由紀の熱愛相手》「小学生から父親のナンパアシスト」すがちゃん最高No.1“チャラ男の壮絶すぎる半生”
NEWSポストセブン
今年8月で分裂抗争10年目を迎える。写真は六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
「宅配業者を装って射殺」六代目山口組弘道会が池田組に銃口を向けた背景 「ラーメン組長」射殺事件の復讐か
NEWSポストセブン
小泉進次郎元環境相と妻の滝川クリステルさん(時事通信フォト)
滝川クリステルの旧習にとらわれない姿勢 選挙区の横須賀では「一度も顔を見せないのはどうか」の声、小泉進次郎氏は「それぞれの人間性を大事にしていきたい」
女性セブン