国民皆保険という制度により、誰もが平等に、安心して医療を受けられる日本。しかし、その裏で、世界の常識と日本の常識がかけ離れている一面もある。特に、がん治療においては、日本だけが手術の数が圧倒的に多いという不可解な現状があるという──。
日本人の半数以上が一生に一度は経験するという、がん。家族が患うことも考えれば、もはや、まったくかかわりのない人はいないといっていいだろう。しかし、ひと昔前は“不治の病”といわれていたが、現代では医療の進歩によって通常の生活を取り戻す人もかなり増えてきている。がんに罹患することと、それを治療することは切っても切り離せず、治療法の選択によっては、その後の人生に悔いを残すこともあるようだ。
千葉県に住む主婦の飯田文子さん(65才・仮名)は、15年前に受けた子宮頸がんの手術について、「いまでも心に引っかかるものがある」と明かす。
「早期の子宮頸がんだとわかり、担当医師からは手術を提案されました。自分なりに調べたところ、放射線治療の方が副作用が少なく、体への負担も軽いと知ったのですが、医師は一方的に治療法を決め、母と夫までもがそろって『放射線治療は危ない』と、原爆の後遺症の恐ろしさを持ち出して頭ごなしに猛反対されました。
外科手術を受け、その後も元気に暮らしているので結果的によかったですが、患者本人である私の話を誰も聞いてくれなかったことへのショックがいまも残っています」
もちろん、命が助かること以上の望みはない。しかし、日本では手術が一般的であるのに対し、欧米では早期の子宮頸がんの8割が放射線や抗がん剤による治療だ。年齢や体力、その後の生活を考えたとき、外科手術がつねにベストなのか考慮し、ほかの治療法を検討するのはごく自然なことといえる。
「生存率が下がっても手術は避けたい」の声
日本では“外科手術至上主義”ともいうべき現状がある。それを示すこんな調査がある。先進国における肺がん(ステージI)の患者が受けた治療を調査したものだ。その数字を目で追うと、不思議なことに気づく。アメリカでは手術が60%に対し放射線治療が25%。イギリスでは手術が53%、放射線が12%。オランダでは手術が47%、放射線が41%などとなっているのに比べ、日本では手術が95%、放射線治療は5%と、出術の割合が大きいのだ。
諸外国と日本の差について、大船中央病院放射線治療センター長で医師の武田篤也さんが言う。
「それぞれの国で行われている治療法の違いには、各国の健康保険制度の有無や国策なども関係しているのではないかと推測できます。日本における手術の割合がここまで多いのは、唯一の被爆国として知らず知らずのうちに植えつけられた放射線に対する抵抗感が関係しているのかもしれません」