夏の甲子園の初戦屈指の注目カードが、高校野球を知り尽くした監督同士の対決となる明徳義塾(高知)vs県立岐阜商業の一戦だ。雨天順延が続いているが、両監督はどのような備えで初戦に臨もうとしているのか。試合前の発言からも読み取れる、その高度な心理戦をノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。
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夏の全国高等学校野球選手権大会の3日目は雨で3日も順延となり、本日(8月15日)の天気も雨の予報だ。第1試合に登場するノースアジア大明桜(秋田)の157キロ右腕・風間球打は、荒天によってノーゲームとなった12日の試合で、4回までMAX149キロ直球と多彩な変化球で無安打ピッチングを披露した。さすが今大会ナンバーワン右腕と呼ばれるだけのピッチングであり、内容だった。
しかし、早く試合が見たいのは、第2試合に控える明徳義塾対県立岐阜商業の一戦だ。この試合を個人的には、「たぬきの化かし合い対決」と呼んでいる。
明徳義塾の馬淵史郎監督(65)は、甲子園通算51勝の名将で、松井秀喜に対する5打席連続敬遠に代表されるように、高校野球界一の策士だ。対する県岐商の鍛治舎巧監督(70)は、母校でもある同校を卒業したあと早稲田大、松下電器とアマチュア野球のエリート街道を進み、その後、長くNHKの高校野球解説を務めた。近年は高校野球監督に転身して熊本・秀岳館を3季連続で甲子園ベスト4に導き、母校に戻ると低迷からの脱却に成功し、夏の甲子園には同校として9年ぶりに帰還した。
誤解なきように断っておくと、60歳を超えてなお高校野球に人一倍の情熱を捧げる両監督が、私は心の底から大好きだ。共に教育者である以上に、野球の技術屋としての矜持が感じられる。試合前の取材では、報道陣さえも利用し、手の内を明かすようにみせて相手監督の動揺を誘い、肝心の策については煙にまく。それゆえの「たぬき」だ。反面、試合が終わってしまえば狙いや意図を詳細に語り、こちらもなるほどと得心する。
本音と建前を使い分ける指揮官の腹の内に踏み込みたいと思うがゆえに、筆者は時折、両監督を怒らせてもしまうが、尊敬の念があるからこそ、ついつい真剣勝負を挑んでしまうのだ。
そんな両監督は雨で中止となった間に、リモート会見に応じた。馬淵監督は監督としての「鍛治舎巧」という野球人の印象についてこう語った。
「細かいことよりも、監督自身の積極的な姿勢が選手たちのプレーから伝わってきますよね。とくに攻撃面において。投手起用においても、逃げずに攻めていく。鍛治舎さんの強い気持ちに負けないように、こちらの監督も選手も臨みたいと思います」