誰もがスマートフォンで動画を見る今の時代。ありとあらゆる映像が都合のいい時間と場所で好きなだけ見られるこの世の中において、文化やコミュニケーションのあり方にも大きな変化が生じている。『スマホ廃人』(文春新書)の著者でジャーナリストの石川結貴さんが驚愕したのは学生の集中力が大きく低下していたことだ。
「大学の先生を取材した際に、いまは90分の授業を最後まで聴ける学生は1割しかおらず、論文やレポートの長い文章を読んだり書いたりすることも苦手な学生が多いと聞きました。
コミュニケーションの手段のほとんどをLINEが担うようになり、スタンプでの簡略化されたやり取りが増えたことや、延々と再生される動画を受動的に見ることに慣れてしまったことなどさまざまな要因が絡み合って、自分が興味を持たないことについて、長い時間をかけて主体的に行動することが難しくなっていると考えられます」(石川さん)
“90分”を集中して過ごせないのは映画館の中でも同様だ。都内在住の20代女性が言う。
「マナー違反だとはわかっているのですが、映画館で映画を見るときもスマホをチェックするのがやめられない。誰かから連絡が来ていないか気になるし、なによりNetflixで見る映画やドラマは電車の中や布団の中で自由に再生・停止をしながら見ることができるから、映画館のように長時間座りっぱなしで拘束されることに耐えられないんです」
彼女のような若者は少なくなく、「スマホOKの映画館を作るべきでは」といった議論すらなされているほどだ。
「こうした若者は、おそらくつまらない映画を見ることが不安なのだと思います。そのためスマホをいじって面白いコンテンツを探し、『この時間は無駄ではなかったんだ』と思い込む。せっかく時間を使って見たものに裏切られることが怖いから、映画の最中でも別の楽しみを探し始めて、スマホを見てしまうのでしょう」(石川さん)