【著者インタビュー】七尾与史氏/『偶然屋2 闇に揺れるツインテール』/小学館文庫/770円
〈仏〉と書いて、フツ―─。
ルワンダ大虐殺(1994年)の背景ともなった元宗主国の選別政策や、フツ族とツチ族の対立の歴史をハンドルネームに刻む神出鬼没の男、〈安倍川正樹〉が、瀕死の状態で病院から姿を消した前作『偶然屋』から早5年。
七尾与史著『偶然屋2』では、人心を巧妙に操り、凶行に走らせるこの悪魔と、偶然を操る〈オフィス油炭〉の因縁もいよいよ決着かと思いきや、まずは前作同様、〈キタァァァァァァァー!〉というパチンコ店での雄叫びから、物語はごくごく軽めな幕を開ける。
早大卒業後、司法試験や就活に失敗し、電柱の張り紙にたまたま釣られて入社した〈水氷里美〉の肩書はアクシデントディレクター。確率好きなイケメン社長〈油炭寿文〉や、驚異の戦闘能力を持つツインテールの名門女子中学生〈雨宮クロエ〉共々、偶然を人為的に実現・演出するのが、彼女のお仕事だ。
が、一見お気楽に見えて〈人間の闇に立ち入ってしまう〉のが偶然屋でもあり、「僕はデビュー作からそう。深刻でえげつないことをあえて軽く茶化したりする不謹慎テイストが、一種の持ち味なんです」
著者にとって映画は発想の宝庫。本書は副題の通りオフィス油炭の有能すぎるアルバイト、クロエの強さの秘密を解くべく書かれ、その命名自体、映画『キック・アス』の女優に因む。
「名前からして、バレバレのパロディですね。元々偶然屋という設定も、小さな蝶の羽ばたきが回り回って嵐を呼ぶバタフライエフェクトや、風が吹けば桶屋的発想と近いものがあるし、結構僕は同じネタを使い回すんですよ。面白いものは何度やっても面白いので。
例えば1章に使った〈23エニグマ〉も、世界は23に支配されていると思い込む映画『ナンバー23』のジム・キャリーがとにかく怖くて面白くて、『妄想刑事エニグマの執着』も書いたのに、また書くのかと(笑い)。
それも含めて一種のセルフパロディといいますか、それこそ推理小説の伏線がなぜ回収されなくちゃいけないかといえば、僕は快感のためだと思うんです。一見無関係な要素と要素がふとした瞬間に繋がったり、無意味だったものに意味が宿ると、読者は『あっ』と驚きや発見や快感を覚える。もしくは『あ、これ何かで読んだ』とか、僕はありとあらゆる発見や『あっ』が、『面白い』だと思うので」
舞台は錦糸町。オフィスを前作で爆破され、近所に越しはしたものの、薄給を補うためパチンコ屋に入り浸る里美が運だけは強く、また仏が悪事の痕跡を一切残さない点も、前作同様だ。