ライフ

今秋98才佐藤愛子さんが最後のエッセイ集「人の悪さでここまで生きてこられた」

佐藤愛子さん

作家・佐藤愛子さんの独特の着眼点はどのようにして培われたのか?

 2016年8月に出版されると大反響となり、2017年の年間ベストセラー総合第1位となった佐藤愛子さんのエッセイ集『九十歳。何がめでたい』。それから丸5年、この度刊行した佐藤愛子さんの最新&最後のエッセイ集『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』がベストセラーになっている。本書をもって断筆宣言をした佐藤さんに、70年超の作家人生についてお話を伺った。

 * * *

母が「お前といると、どんなことになるかわからない」と

 規格外の両親のもとで育ち、佐藤さんにも、知らず知らず、人間を見る目が養われていった。

「門前の小僧習わぬ経を読むというやつです。何しろ、父も兄も、ものを書く人間でしたから、お客さんが帰ろうとしてまだ靴を履いているうちから、『なんだあいつは』って人物月旦が始まるわけです。

 私が作家になれたのも、おそらく人間に対する感性が身についていたからで、親は別に教育しようと思っていたわけではなく、自然に吸収していたんでしょう」

 子供の頃、クリスマスプレゼントがなじみの洋品店の箱に入ってるのを見て、「サンタはいない」と察したのに、「サンタクロースさん、ありがとう」と言うように父から指示され、なんとも言えない気持ちになった。そのときの心の動きがみごとに書かれていて印象に残る(「『ハハーン』のいろいろ」)。

「子供ながらに、言うに言えない感情があるのね。そのときの自分がどう思ったのか、記憶をかき分けていっていまも考えるんですけど、思い当たる言葉がないですね」

 2歳のときの記憶という。利発で繊細、父である佐藤紅緑が末娘の「アイちゃん」を溺愛したというのもよくわかる。

「佐藤さんのうちへ行ったら、朝から晩まで先生が『アイちゃん、アイちゃん』と言ってるって近所で有名で、私は嫌でね。50のときの子ですから、孫みたいなもんですよ。4人いた兄はそろって不良でしたしね。母は冷静な女だから、『この子は賢い、楽しみだ』って父が言うたびに、『ふん』って顔を必ずしましたよ」

 特殊な家庭環境に加えて、2度の結婚・離婚や、2人目の夫の会社が倒産し莫大な借金の肩代わりをしたことで、作家佐藤愛子はできあがった。

「私は本当にぜいたくに、豊かに育ってるんですよ。ところが夫が破産して、貧乏のどん底に沈んだ。そんなときは誰でも、さぞかしショックを受けるものだろうと思うんだけど、私は別にどうということはなかったんです。嘆いているうちに先に進むことを考えてました。それはやっぱり、佐藤家に流れていた、いろんな雑多なものをそのまま飲み込んでいく血というのか。細かいことをいちいち気にしていたら、生きていけないような家でしたから。

 子供の頃から、お菓子でもおもちゃでも、『あれ買って、これ買って』と、ねだってまでほしいと思ったことがないんです。欲望に対して淡泊ですから、貧乏になっても、どうってことない。だいたい、金持ちがえらいと思っている人を、佐藤の家ではバカにしてましたからね」

関連キーワード

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者(2023年12月撮影)
【広末涼子容疑者が追突事故】「フワーッと交差点に入る」関係者が語った“危なっかしい運転”《15年前にも「追突」の事故歴》
NEWSポストセブン
北極域研究船の命名・進水式に出席した愛子さま(時事通信フォト)
「本番前のリハーサルで斧を手にして“重いですね”」愛子さまご公務の入念な下準備と器用な手さばき
NEWSポストセブン
広末涼子(時事通信フォト)
【広末涼子容疑者が逮捕、活動自粛発表】「とってもとっても大スキよ…」台湾フェスで歌声披露して喝采浴びたばかりなのに… 看護師女性に蹴り、傷害容疑
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《中山美穂さん死後4カ月》辻仁成が元妻の誕生日に投稿していた「38文字」の想い…最後の“ワイルド恋人”が今も背負う「彼女の名前」
NEWSポストセブン
麻布台ヒルズの個展には大勢の人が詰めかけている
世界的現代美術家・松山智一氏が問いかける“社会通念上の価値の正体” 『うまい棒 げんだいびじゅつ味』で表現したかったこと
週刊ポスト
工藤遥加(左)の初優勝を支えた父・公康氏(時事通信フォト)
女子ゴルフ・工藤遥加、15年目の初優勝を支えた父子鷹 「勝ち方を教えてほしい」と父・工藤公康に頭を下げて、指導を受けたことも
週刊ポスト
山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
Tarou「中学校行かない宣言」に関する親の思いとは(本人Xより)
《小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」》両親が明かす“子育ての方針”「配信やゲームで得られる失敗経験が重要」稼いだお金は「個人会社で運営」
NEWSポストセブン
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン