今年5月、突然の断筆宣言をした作家・佐藤愛子さんのエッセイ集『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』が、8月6日に発売された。
累計133万部のベストセラーとなった前作『九十歳。何がめでたい』から5年ぶりとなる、この最新で最後のエッセイ集は、全国の有名書店ベストセラーランキングに登場。紀伊國屋書店全店・エッセイ部門1位(8/7~114)、くまざわ書店・エッセイ部門1位(8/2~15)、三省堂書店全店・日本文学 女性作家部門1位(8/2~10)、丸善ジュンク堂書店 現代文学部門1位(8/2~15)……と、軒並み1位にランクインし、早くも重版が決定した。書店員の礒部ゆきえさんはこう話す。
「年配の女性にとって、佐藤愛子さんはきっとアイドルなんだと思うんです。友達同士でいらっしゃって、愛子先生の新刊が出てるわよ、と言って買っていかれるかたも多いですね。装丁も『九十歳。何がめでたい』と同じテイストになっていて一目で続編とわかるので、皆さん、買いやすいんだと思います」
さらに、前作から50ページ以上が追加された完全保存版ともいえる文庫版『増補版 九十歳。何がめでたい』も同時発売。こちらもたちまち重版が決まっている。
年配の女性に刺さる言葉
では、佐藤さんのどんな言葉が、年配の女性たちに“刺さる”のだろうか。2冊の中から、佐藤さんの魅力が伝わる言葉を紹介する。
●『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』より
北海道に別荘を建てた際、大工の見込み違いで予算オーバーするとわかり──
「それじゃあね、こういうテはどうかな。二階はそのまま、ガランドウのままでほっとく。天井も内壁もいらない。床も下張りだけでいい。外壁だけあれば雨風は防げるから、内壁はいらない……。それでナンボか安くなるでしょう」
エッセイ「不精の咎」より
*
老いてからの長い歳月を前向きに過ごすためのコツを記者に聞かれ──
「うーん」/ひとまず私は唸った。
──べつに老人が前向きに生きなければならないってことはないんじゃないの?
それが私がいいたいことである。もっと端的にいうと、
「もう前向きもヘッタクレもあるかいな」
という台詞だ。
エッセイ「前向き横向き正面向き」より