まだまだ残暑が厳しいこの季節。そんなときこそ、エアコンの効いた快適な部屋で読書に勤しみたい。そこで、夏の終わりを充実させる、注目の新刊4冊を紹介する。
『ムスコ物語』
ヤマザキマリ/幻冬舎/1650円
ムスコの名前は大自然の中で生きる猟師『デルス・ウザーラ』(黒澤明監督)から。フィレンツェ生まれ、札幌〜シリア〜ポルトガル〜シカゴと移り住んだデルス少年は進路選択の自由ができると米国本土の工科大学を蹴ってハワイ大学へ。理系でも文学や漫画、宗教哲学に興味を持ち、五感を使って旅するノマドな青年に。著者のエッセイにはいつも胸がすく。遊牧民家族に乾杯!
『兇人邸(きょうじんてい)の殺人』
今村昌弘/東京創元社/1870円
剣崎比留子と葉村譲の大学生コンビ第3弾。今回も不気味なバイオ研究所「班目(まだらめ)機関」に関係するクローズドサークル(孤立した舞台設定)ものだ。廃墟ブームに乗った遊園地の中に建つ兇人邸。班目機関の研究成果を取り戻すために関係者らと乗り込むが、そこでは異形の巨人、首切り殺人鬼が闊歩していた。おどろおどろしいけれど、フランケンシュタインに通じる物悲しさも。
『東大脱力講義 ゆるい日本史 鎌倉・室町・戦国時代』
監修・本郷和人/マンガ・カレー沢薫/小学館/1210円
冒頭にワハハ。「おじさんと歴史はセットで避けられます」と。当たってる! ましてや鎌倉〜室町〜戦国時代の中世なんて。でも読み始めたらこれが面白い。ボコる、ガチ切れなど表現が軽すぎだけど、おかげで通読可能に。兄弟が別々の天皇をかついだ南北朝時代で言えば、現在の皇居(北朝の系統)にどうして南朝の英雄楠木正成の像があるのか。本郷先生、是非それも教えて。
『店長がバカすぎて』
早見和真/ハルキ文庫/759円
吉祥寺にある書店の契約社員、谷原京子。小説愛だけを頼りに薄給に耐える中、我慢ならないのは鈍感と気遣いが普通人とは逆転した店長のノー天気ぶり。小説を愛す書店員の日常と憤懣をコメディタッチで描き、全国の書店員さんの共感を呼んだ1作。この文庫には続編の予告編的ボーナストラックも。単行本時、角川春樹社長が許可しなかったもので、その時の対談も収録する。
文/温水ゆかり
※女性セブン2021年9月9日号