死者69人という国内最大規模のクラスターが沖縄県うるま市の病院で発生した。高齢者が入院する病院や施設は、感染拡大を招く要素がいくつも潜んでいると指摘されている。今回の惨劇を紐解くと、新型コロナの感染拡大から身を守るための教訓が見えてきた──。
丘の上に建つ3階建ての病院を指して、地元住民はこう語った。
「あそこは『看取り専門の病院』と言われていて、高齢で食事を喉に通すことも難しい人や寝たきりの人、認知症の人が県内全域から集まっている。在宅介護ができなくなった家族が頼る“最後の砦”なんです。それが、7月半ばから珍しく救急車が何度も来ていたので、“もしかしたらコロナが出たのでは”と噂が飛び交っていました」
8月17日、沖縄の病院で199人が新型コロナに感染し、入院患者の死亡が64人という衝撃的なニュースが報じられた。その後も収束する気配はなく、8月19日時点で死者数が69人に達している。
国内最大級のクラスターが発生したのは、沖縄県うるま市にある老年精神科病院「うるま記念病院」だ。沖縄県新型コロナ対策本部の広報担当者が語る。
「うるま記念病院は、高齢の患者の看取りまで行なう病院です。最初に陽性者が発生した段階で陽性者と陰性者を分ける『ゾーニング』を専門的に行なうことが難しく、両者が混在したことがクラスター発生の理由と考えられます。コロナ患者を隔離する陰圧室などの感染症に対応できる設備もありませんでした」
同病院で最初の陽性者が出たのは7月19日。折しも沖縄県の感染が急拡大する局面だったことも、大惨事を助長した。
「最初の陽性者が発覚してすぐ県に報告が入り、翌日にクラスター対策班が病院に医師や看護師を派遣しました。ただしこの頃はすでにデルタ株の蔓延で県内の医療従事者が手一杯になっており、十分な支援ができませんでした」(同前)
うるま記念病院の患者は高齢者のみで、入院しているのは認知症の患者が多い。巨大クラスターが発生した時、約270床の病床はほぼ埋まっていた。
同病院では今年1月にも入院患者と職員の76人が感染するクラスターが起きていた。同病院の広報担当者はこう語る。
「今回は1月のクラスターとは状況が全く違います。前回講じた対策が破られて感染が広まってしまった」
拡大した背景には猛威を振るうデルタ株の感染力も考えられるが、高齢者向けの病院施設特有の「弱点」があったとも指摘されている。
これはいつ他の高齢者病院や施設で起きてもおかしくはない。巨大クラスターの悲劇から、私たちは何を教訓とすべきか──。