映画史・時代劇研究家の春日太一氏による、週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優の永島敏行に、高倉健さん、田中邦衛さんと共演した思い出について語った言葉を紹介する。
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永島敏行は若手時代に高倉健と映画で二度共演しており、『動乱』(一九八〇年)では部下役、『駅 STATION』(八一年)では弟役を演じている。
「高倉健さんと仕事できるなんて夢にも思いませんでした。
非常に優しいんです。
寡黙な人のイメージがあるかもしれませんが、普段はよく冗談を言って。僕が緊張しないようにフランクに接してくれました。
健さんは小林稔侍さんを可愛がっておられたので、稔侍さんも僕が緊張していると話をしてくれたりしましたね。健さんが気にかけている人の世話を稔侍さんがする、という感じでした。
これは『駅』に出た後だと思うんですが、僕の誕生日なのでマネージャーと二人でスナックで飲んでいたんです。そしたら、店に健さんから電話がかかってきた。どうしてここにいることが分かったんだろうと思っていると、『今から行くから』と。
ここに健さんが来られても大変なことになりますので、マネージャーと二人で道路に出て待っていたら車でやってきて『誕生日おめでとう』って、ロレックスの時計をいただいたんです。
健さんからは『屈辱がエネルギーだ』というお話を伺いました。失敗とかダメだったこととか、そうした恥を自分の中に溜め込んで、人は変わっていける──ということなんです。
僕も最初は失敗ばかりでしたから、それはよく分かります。恥をかいたから前に進めたんだと思います。この仕事は恥をかくことです。それが全て表現に変わっていく。
いわば、失敗してお金がもらえるわけです。なかなかこんないい仕事はないと思います」