国と東京都が、東京都内の全医療機関に新型コロナウイルス患者受け入れを要請すると決めた。従わないと病院名を公表するとし反発を招いているが、一部から医療界が応じないのが悪いという主張も根強い。新型コロナウイルスの脅威にさらされた一年目、2020年は、医療従事者への感謝を示そうとブルーインパルスが特別飛行をし、全国各地で青色のライトアップが実施されたことなどが話題になった。2021年の今、医療従事者への姿勢はどうだろうか。俳人で著作家の日野百草氏が、東京都下の病院で働く看護師に、国と都の要請と近ごろの医療への風当たりについての本音を聞いた。
* * *
「患者さんはコロナだけではありません。1分1秒を争う患者さんはコロナ以外の方もいます。病院全体からすれば、むしろそちらのほうが大半です。正当な理由なしにコロナ患者だからと断ることはありません。それなのに受け入れられないなら病院名を晒すなんてあんまりです」
怒りも当然の「病院名公表」という見せしめ――政府および東京都による8月23日の決定に対し、筆者の知人である都下総合病院の女性看護師が電話で話してくれた。担当は循環器内科。今年2月の改正感染症法が「さらし者」にする主な法的根拠となっている。
「病床を(コロナ患者に)割くにも限界があります。病床が空いていても、決してコロナを受け入れたくないから空いているのではありません。命の危険にある患者さんはコロナ以外にもいるのです」
医療関係者には守秘義務があるため、個々の事例などは排除して、コロナ禍、現状の医療体制という形でお話しいただき構成した。専門用語なども筆者が平易に置き換えている。
「むしろコロナ患者を積極的に受け入れている病院から救急外来が回ってきます。急性心筋梗塞の患者さんは1分1秒を争います。(治療が)遅れれば命を落とします。時間はありません」
急性心筋梗塞(虚血性心疾患のひとつ)とは心臓の冠動脈が詰まることで発症する恐ろしい病気である。死亡率は30%~50%とされ(諸説あり)、ある日突然苦しんで死ぬ。無痛性というのもあるが、これもまた知らないうちに心筋梗塞で死ぬという洒落にならない死に方をする。動脈硬化などが要因とされるが、基礎疾患がなくとも若くても発症する。女優の天海祐希さんやプロサッカー選手の松田直樹選手も罹患し、天海さんは命をとりとめたが、松田選手は34歳の若さで亡くなった。筆者も5年前、44歳で急性心筋梗塞を発症した。
「いまこの一瞬に死んでしまう、というのが急性心筋梗塞です。閉塞箇所にもよりますが、たとえば5番ならいつ死んでもおかしくない状態です」