服用している薬が多すぎると、「組み合わせ」によって“飲めば飲むほど不健康になるリスク”が増していく──。本誌・週刊ポスト前号(8月27日発売)では、日本病院薬剤師会が全国48の病院から集積した多剤投薬の実態を公開した『多剤投薬の患者に対する病院薬剤師の対応事例集』(以下『事例集』)をもとに、主に病院に入院することで集中的に“断薬”に取り組み、成功した多剤処方の患者33人の事例を仔細に紹介した。
なかには「薬物有害事象」という“薬を服用したことによる病気”が疑われたケースや、処方が複雑なため飲み忘れにより効果が得られず、さらに薬が増える悪循環に陥っていたケースもあった。
様々な事例が並ぶなか、注目すべきポイントになるのが「組み合わせ」の問題だ。国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎医師が指摘する。
「事例集には、薬剤の添付文書で『併用注意』とされている薬が一緒に処方されていたケースが少なくありませんでした。複数の薬を飲むリスクのひとつに『相互作用』というものがあり、同じ効果の薬の併用により“薬が効きすぎる”こともあれば、相反する効果があるために“打ち消し合う”というリスクもあります。処方された薬が多いほど、どんな相互作用があるか分かりにくくなります」
医師や薬剤師が処方の際に参照する薬の添付文書に書いてあるにもかかわらず、なぜ「併用注意」の薬が一緒に処方されてしまうのか。銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘氏が語る。
「医師が診察時に電子カルテで薬を処方する際、『併用禁忌』や『併用注意』の組み合わせには画面上にアラートが出ます。しかし、複数の医療機関を受診して多剤併用となっている場合、一人の医師が把握するのは困難です。“かかりつけ薬局”で一元管理できれば避けられますが、制度としては道半ばの状態です。
最近はコロナ禍での受診控えによる主治医と患者のコミュニケーション不足もあり、リスクのある多剤併用が広がることが懸念されます」