雨にたたられた今夏の甲子園を制したのは智弁和歌山だった。中谷仁監督や選手たちが日本一の要因にあげたのが和歌山県内のライバルの存在だ。
「苦しかった市立和歌山との決勝で小園(健太)君を攻略し、甲子園にたどり着けた。大きな壁を越えたことで自信につながりました」(中谷監督)
小園はMAX152キロの世代ナンバーワンと目される右腕だ。変化球と投球術の評価も高い。甲子園決勝の2日後、プロ志望届を提出したばかりの小園を訪ねた。
「自分たちに勝った相手ですから、決勝は智弁和歌山を素直に応援しました。毎試合、ふた桁安打で投手陣も2点以内に抑えて……こんな凄いチームがライバルだったのかと思いましたね(笑)」
和歌山大会決勝で、小園は6回途中まで強力打線を無得点に抑えた。だが、終盤に変化球の失投を見逃してもらえず計4失点。それでもこの夏、王者をもっとも苦しめた。
「負けた直後、何も考えられないぐらい泣いたんですけど、案外スッキリして、やりきったという感情が芽生えた。プロではふた桁勝てる先発投手を目指したい。12球団どこでもOKです」
春と比べて胸板がぶ厚くなったのは、プロ入りに向けて体作りに取り組んでいる証拠だ。中学時代に150キロを記録した同い年の高知高校の豪腕・森木大智からアドバイスを受けているという。
「身体に対する意識が凄い。体幹トレーニングを教わってやっています」
今春の選抜を経験した小園に対し、森木は甲子園経験がない。どこで接点を持ったのだろうか。
「会ったことはありません(笑)。インスタでつながって、LINE電話でやり取りしています」
世代ナンバーワンを争うふたりは、共に甲子園出場を逃した最後の夏の悔しさをプロで晴らそうと刺激し合っている。
取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)
※週刊ポスト2021年9月17・24日号