菅義偉首相の電撃的な不出馬表明で大混乱となった自民党総裁選(9月17日告示、29日投開票)。河野太郎ワクチン担当相、石破茂元幹事長、高市早苗前総務省ら様々な有力候補の名前が取りざたされるが、振り返れば永田町が大きく動いたきっかけは、岸田文雄元政調会長がいち早く総裁選の立候補を表明し、菅首相との対決姿勢を鮮明にしたことだった。
外務大臣や防衛大臣などを歴任した大物議員の岸田氏はなぜ、菅首相に牙を剥いたのか。元衆議院議員でタレントの杉村太蔵氏が政局の引き金を引いた岸田氏を直撃して、混沌の総裁選に賭ける思いを聞いた――。
杉村:そもそも今回の大混乱が生じたのは、8月26日の総裁選立候補会見で岸田さんが「総裁を除く党役員は1期1年、連続3期までとして権力の集中と惰性を防ぎたい」と表明したことがきっかけでした。歴代最長の5年にわたって幹事長ポストに就く二階俊博さんに、「俺が総裁になったらやめてもらう」とタンカを切ったわけですよね。私は二階さんには、ほかの政治家にはない異質な凄みと怖さを感じていますが(苦笑)、温厚な岸田さんが実力者の二階さんにケンカを売るなんて、いったいどういう心境だったんですか。
岸田:いやいやいや(苦笑)。マスコミは「二階切り」と報じているけど、私はあくまで自民党が信頼関係を取り戻すため、権限が集中する党役員の任期は総裁に近い3期3年にしてはどうかと提案しただけです。優秀な中堅若手を登用するためにも党の人事制度を変えることを提案したわけで、特定の誰かを念頭に「やめろ」と発言したのではありません。
杉村:ええっ、本当ですか? でも岸田さんの発言を受けて、菅さんはすぐに二階さんの交代を柱とする党人事の刷新を打ち出しました。この時は「しまった。二階外しという目玉をつぶされた」と思ったのではないですか。
岸田:そんなことはありません。私はあくまで制度の改革を訴えただけで、具体的な人事がどうなろうと構いません。そこを強調しておかないと、結局は権力闘争の手段ではないかと誤解されてしまう。自民党は変わらないといけない、ということだけを言っておきたい。
杉村:わかりました。そもそもですが、なぜ自民党の総裁選に立候補しようと思われたのですか。当時は現職の首相が相手で、主要派閥の支持は得られにくい状況でしたが。
岸田:国民の声が政治に届いていないと感じたからに尽きます。多くの国民が、政治が自分たちの声を聞いてないと思っている不満が政治不信につながっています。実際に私の地元広島で今年4月に行われた参議院の再選挙では、従来は50万票以上取っていた自民党候補が33万票しか取れず、投票率が低下しました。つまり野党が評価されたのではなく、自民党が有権者から見放されているんです。
そうした苦境で行われる総裁選は、自民党に国民の声をくみ上げる力が残っていることを示す大きなチャンスであると考え、私が率先してその道を示そうと決意しました。安倍首相が辞任した後の前回総裁選と違い国会議員票と党員・党友票が同数のフルスペック方式なので、ひとりひとりの党員に信念を訴えることに私の活路があると信じて挑戦しました。