世界的な人口爆発に伴う食糧問題を解決するために、新たな「タンパク源」の確保が求められる。そんななか、注目を集めているのが「昆虫食」だ。
世界の食糧危機の危機を救う使命を掲げ、食用コオロギの繁殖・飼育から品種改良、加工、商品開発までを手がける会社が徳島県にある。日本最大の食用コオロギ生産を誇り、昨春、大ヒットした無印良品とのコラボ商品「コオロギせんべい」で知られる、研究でも世界をリードする徳島大学発フードテックベンチャー企業グリラスの生産拠点・美馬ファームを取材した。
昆虫食の中でも、高タンパク・低糖質のコオロギは飼育が簡単で環境負荷も低いと注目を集めている。同社は徳島大学で約30年間かけて蓄積されたコオロギの基礎研究をベースに2019年に設立。飼育するのは徳島大が研究用に維持してきたフタホシコオロギのアルビノ系統(白眼)のみだ。
長年、コオロギ研究を続け、『最強の食材 コオロギフードが地球を救う』著者でもある野地澄晴学長は「高密度での飼育が可能で、試算では1000個の卵が1年後(6サイクル)には約477兆匹の成虫に。全部をパウダーにすると約9500トンになります。コオロギフードは地球の食料難を救う最強の食材です」と解説する。
徳島市から車で約1時間の美馬ファームでは、廃校の校舎を丸ごと利用してコオロギを養殖。箱入り娘のように徹底した管理下の衣装ケースの中で大切に飼育されている“箱入りコオロギ”は、孵化後8回脱皮し、30日間で成虫になり“収穫”される。白眼のコオロギのみを使うのは、万一、外部から一般的な黒眼のコオロギが紛れ込んだ場合にすぐ発見でき、同社の品質管理の証にもなるためという。グリラスCEOで徳島大学大学院社会産業理工学研究部の渡邉崇人助教は「量産化に向け、自動飼育システムの開発も進めています」という。
コオロギは雑食性で、柚子を食べれば柚子風味になるなど、食べる物によって風味が左右される。餌は企業秘密だが、美味しくするための研究も続けられている。
撮影/太田真三
※週刊ポスト2021年9月17・24日号