「ワクチンは切り札」。その大号令のもと、接種が進められてきた。だが、その効果がないかもしれない、世界で次々と生まれる「変異株」に人類は打ち克てるのか──。
ベルギーの首都ブリュッセルの中心部から10kmあまり、閑静な住宅地にある老人介護施設「テルブルグ」。この7月、その施設の入居者28人のうち7人が新型コロナに感染して死亡した。関係者に衝撃を与えたのは、死亡した全員がワクチンを2回接種していたことだった。
悲劇を招いた元凶は、変異株の「ミュー株」だ。ミュー株は今年1月にコロンビアで最初に確認され、その後、世界40か国以上に広がった。“生誕の地”であるコロンビアでは累計12万人以上が亡くなっている。昭和大学客員教授(感染症)の二木芳人さんが言う。
「ミュー株は感染力が非常に強く、ワクチンで得られた免疫を回避する特徴があるといわれています。ベルギーの老人介護施設で、接種が完了していた入居者が死亡したのも、この免疫回避能力の高さからだと考えられ、世界保健機関(WHO)はミュー株を『注目すべき変異株』に指定しています」
恐ろしいことに、ミュー株はすでに日本に流入している。厚労省は、6月にアラブ首長国連邦から、7月にイギリスからそれぞれ入国した女性2人から、ミュー株が検出されたことを9月1日に明らかにした。
国内で「注目すべき変異株」はもう1つある。それは「ラムダ株」だ。昨年12月に南米ペルーで発見された変異株で、ペルーの全人口の約0.6%にあたる20万人の命を奪ったとされる。こちらもすでに五輪開催中の8月に、日本国内で確認されている。感染者は五輪関係者で、濃厚接触者の迅速な検査などは行われなかった。国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さんが指摘する。
「ラムダ株は感染力が強く、ワクチン抵抗力も持ち合わせており、東大チームの研究報告は『ラムダ株は人類社会の潜在的な脅威になる』と警鐘を鳴らしました」
目下の国内では、デルタ株の感染爆発が頭打ちとなり、新規感染者数が落ち着き始めたように見える。しかし、空気が乾燥してウイルスがまん延しやすい秋以降は「第6波」の到来が懸念される。さらに秋は、早期にワクチンを接種した人たちの抗体価が低減し、ブレークスルー感染が増加すると予想される時期だ。それに加え、ミュー株やラムダ株のようにワクチンの効かない変異株がまん延すると、「第6波」のリスクはより高まる。
「ミュー株、ラムダ株とも、これまで南半球の冬に猛威を振るっていたものです。ともに、すでに日本国内に広く伝播している可能性があり、これから冬の寒さを迎える日本は最大限の警戒が必要です」(一石さん)
ワクチンが効かない変異株で日本はどうなるのか。