映画史・時代劇研究家の春日太一氏による、週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優の永島敏行が、イギリス留学で受けたボイストレーニングによって気づいた芝居について語った言葉を紹介する。
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永島敏行は一九八七年、ボイストレーニングのため、イギリスに留学している。それまで演技の基礎的な技術の練習をしないままキャリアを重ねてきた永島にとって、初めての経験となった。
「最初の舞台は帝国劇場でした。でも、舞台ってあまり好きじゃないなと思ったんです。
言われた型にはまらなきゃいけないというようなところがあって。それにギリシア神話なんて読んだこともないし、なんだか難しいと思いながらも、やり通したんですよね。
その時にマーチン・ネーラーさんという演劇プロデューサーに『君、ボイストレーニングしたほうがいいよ』と言われて。野球部でしたから、大きな声は出しているはずでした。それが『君が舞台で出している声はお客には通じない。ただ張り上げている声なので、お客の耳に届かない。それをちゃんと勉強したほうがいいよ』と言われて、生まれて初めて演劇の勉強をしようと思ったんです。
それで銀行でお金を借りてイギリスに行ったんです。三か月くらい仕事を空けて。
ロイヤル・シェイクスピア劇団についているボイストレーナーに教わったのですが、これが非常に楽しかった。
芝居はリラックスすることだというんです。リラックスさせて声を自分の身体に響かせ、自分の腹から声を出すのと同時に感情も出ていくという。それを三か月やっていくうちに、通る声になりました。
それから、向こうの教え方は褒めて伸ばすんです。自信を持つことで自分を解放させてリラックスができるという」
留学を経たことで得るものは大きかった一方で、ある「落とし穴」に落ちかけたともいう。