「さくらんぼはまだ? 今年は、2箱ほしい」──。浅田美代子(65才)のもとに樹木希林さん(享年75)からこんな“催促”があったのは、2018年春のこと。この何気ない連絡に、浅田は違和感を覚えた。後でわかるのだが、ちょうどその頃、樹木さんは余命宣告を受け、果物ぐらいしか喉を通らないほど、食欲がなくなっていたという。
樹木さんは2004年に乳がんが発覚し、2013年に全身のがん転移を公表してからも仕事は変わらずにこなすなど、普段どおりの日常を送っていた。しかし、2018年8月に大腿骨を骨折。そのまま入院が続き、翌月、家族に見守られながらこの世を去った。
最後の1か月はほとんど入院生活。その間、浅田は樹木さんを毎日のように見舞った。
冒頭のように、何気ない変化に気づくほど、2人は特別な関係だった。樹木さんと浅田は、長い長いつきあいの“親友”だ。出会ったのは、浅田が高校2年生のときに受けたドラマ『時間ですよ』(TBS系)のオーディション。以来47年、樹木さんは浅田に対して時には母として、時には姉として接してきた。
この9月15日──樹木さんが亡くなって3年目の命日に、浅田が書籍『ひとりじめ』(文藝春秋刊)を上梓する。綴られているのはこれまでの浅田の半生と、樹木さんとの思い出の日々だ。
樹木さんが亡くなってからというもの、浅田のもとには樹木さんへの思いを綴ってほしいという依頼が、数多くあった。しかしそれらのすべてを彼女は断っていた。
なかなか樹木さんの死に向き合えず、自分の気持ちに整理がつかなかったからだ。
それから3年という月日を経て、ようやく樹木さんとの日々を振り返る決心ができたという。
浅田は本を書くきっかけになったという樹木さんのある言葉をこう話す。
「『美代ちゃんが私の人生の語り部になってね』。これは生前の希林さんから言われていた言葉なんです。
まだまだ希林さんがいない現実に慣れることはできませんが、『ひとりじめ』してきた時間を少しでもたくさんの人に伝えたいと思い、なんとか書き残すことにしました」
そこには浅田しか知らない等身大の樹木さんの姿が綴られていた。