地球上の動物たちが、生命を維持するために自然と行うこと、それが「睡眠」だ。幼い頃に親が寝かしつけてくれたことや、自分が子供を寝かしつけたことを覚えている人はいるだろう。しかし、「眠り方」を教わった経験がある人は少ないはずだ。世の中には、運動が苦手な人がいるのと同じように、「睡眠」が苦手な人が存在する。
お笑いコンビ・霜降り明星のせいや(29才)は、「睡眠恐怖症」を公言している。ここ10年以上、23時以前に寝たことがなく、2018年に『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)で優勝してからは、毎日深夜3時まで眠れずに起きているという。自身のYouTubeでは「寝るのが怖い」と語り、「寝る決心がつかない」「布団に入るという発想がない」と明かした。
会社員の田中美香子さん(仮名・38才)は、毎晩、寝ることに抵抗を感じると話す。
「眠ると一日が終わって、起きると朝になっているあの感覚が、時間をムダにした気持ちになって大嫌いなんです。夜になると1分でも長く起きていたいと考えてしまう。とはいえ、夜中にできることも限られているし、延々とスマホの動画やテレビを見て過ごすだけです。ここ数年、テレビや電気を消して眠ったことがありません。睡眠不足で日中はぼんやりしますが、夜になると不思議と目がさえるんです」
1日1回、まとまった睡眠を取る人間に対し、多くの動物は、細切れに眠る。有吉祐睡眠クリニック院長の有吉祐さんが解説する。
「動物にとって、睡眠は恐怖を伴う時間でもある。外敵から身を守る必要性などから、長時間の連続した睡眠を取りづらい。細かい睡眠を分割して取り、1回の眠る時間が人間より短いことが多いのです」
人間も、朝と夜の概念がない新生児は細切れで眠る。眠ることに抵抗を持つ人は、動物的な「本能」が強く残っているように思えなくもないが、有吉さんは否定する。
「『眠りたくない』という人は、起きて何かをしなければと考える“活動欲求”が過剰なことが多い。眠っている時間は非生産的で何も生み出さないから、睡眠はできるだけ短時間にしようと考えてしまうのです」
一般的に、7.5時間程度の睡眠時間を取ることが最も健康的だとされる。精神科医の樺沢紫苑さんが言う。
「『眠りたくない』と考えるのは、睡眠障害の兆候。6時間睡眠を14日間続けると、2日徹夜したのと同程度まで認知機能が低下するという研究もあります。きちんと睡眠を取れば6時間で終わる仕事が、睡眠を1時間削ったことで8時間かかることもある。睡眠時間を削ることは、パフォーマンスの低下につながります」
あらゆる病気のリスクを高めることもわかっている。
「睡眠が6時間以下の人は、そうでない人と比べて、がんが6倍、脳卒中が4倍、心筋梗塞が3倍、高血圧が2倍、糖尿病が3倍、風邪が5倍のリスクがあり、死亡率が5.6倍上がるという研究もある。最近では、新型コロナウイルスに関する論文があり、睡眠時間をしっかり取る人は、取らない人より感染リスクが低いというデータもある」(樺沢さん)
「眠りたくない」と考えてしまう人は、強引に削った睡眠時間が大きな反動となって返ってくることを理解すべきだ。
※女性セブン2021年9月23日号