今年は10月11日に開催されるプロ野球ドラフト会議。例年、社会人、大学野球の有力選手以上に、注目を集めるのが“甲子園のスター”だが、今回は地方大会で涙を呑んだ高校に有力選手が存在する。その筆頭格とも言えるバッテリーが、和歌山にいる。ノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。
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智弁学園(奈良)との兄弟校対決を制し、日本一となった智弁和歌山ナインの表彰式の様子を眺めながら、思い起こしたのはふたりの逸材だ。同校にとって同じ和歌山のライバルであり、この春の選抜に出場していた市立和歌山の152キロ右腕・小園健太と、捕手の松川虎生。彼らこそ、智弁和歌山をもっとも苦しめた学校であり、バッテリーではなかったか。
この夏、市立和歌山は和歌山大会決勝で智弁和歌山と対戦した。小園は6回途中まで強力打線を相手に無失点の好投を続けていたが、終盤に変化球の失投を見逃してはもらえず1対4で惜敗した。
中学時代からバッテリーを組み、共に多くの強豪校からの勧誘を断り、和歌山県内の公立校に進学したふたりは、今秋のドラフトでも上位候補に挙げられる。高校野球が終わって、一ヶ月以上が経過したなか、小園はこう語った。
「甲子園はずっと見ていました。同じ県にこんな強いチームがいたんだと改めて思いましたね。智弁和歌山がいたから自分の力も上がりました」
智弁和歌山には右の大砲となる徳丸天晴のほか、強打の野手が揃うが、小園は意外なことに智弁和歌山のエース・中西聖輝に、昨秋に変化球をとらえられて一発を浴びた。選抜へつながるこの試合には勝利したものの、小園にとって高校野球生活の公式戦で唯一浴びた本塁打となった。
「和歌山といえば、智弁和歌山。そういう世間の認識の中で『イチコウ』(市立和歌山)に飛び込んで、歴史を変えたかったし、自分たちで新しい歴史を作りたかった。最後の夏は負けてしまったけど、去年の秋は智弁和歌山に勝って甲子園に出られた。一度も甲子園に出られなかったわけじゃない。やっぱり、高校野球生活に悔いはないです」
小園は選抜に出場した春から比べても、胸板が一回り分厚くなっていた。
「接骨院に通っているんですけど、そこの先生に肩周りの筋肉が足りないとアドバイスされて。意図的に上半身のトレーニングに力を入れました。筋肉を付けすぎても可動域が狭まってしまう。ベンチプレスでも重い重量ではなく、軽い重さで回数をこなして柔軟性を失わないように気を遣っています。春と比べれば、小さな力感で8~9割のボールが投げられるようになったと思います」
球速だけでいえば、夏の甲子園に出場した秋田・ノースアジア大明桜の風間球打がMAX157キロで小園を上回る。しかし、聖地で変化球の制球に関して不安を露呈した風間に対し、小園には打者の手元で鋭く変化するツーシームやスライダーなど、多彩な変化球も手の内にあり、相手打者を手玉に取る投球術にも長けている。
「今の自分に足りないのは、圧倒的な真っ直ぐ。真っ直ぐで押しきることができず、かわすピッチングになってしまうところがある。真っ直ぐのキレを求めたいのと同時に、カットボール、ツーシームのスピードを真っ直ぐに近づけたいし、緩急をつけるためにカーブ、チェンジアップの精度も上げたい」
市立和歌山の主将でもある捕手・松川の「虎生(こう)」の名は、阪神タイガースファンの祖父によって名付けられた。小園と同じ8月30日にプロ志望届を提出した松川だが、意中の球団はなく、12球団OKの構えだ。
「指名されることを信じて、待つだけです。おじいちゃんは『阪神に行け』と言うんですけど、行こうと思って行ける場所じゃないじゃないですか。(スカウトの評価は?)気になりますね。選ぶ選ぶと(新聞紙上などで)言いながら選ばないじゃないですか(笑)。とにかく、打てる捕手が目標。できれば1年目から一軍で活躍できる一流の選手になりたい。子供の頃からずっと家ではプロ野球中継を観ていました。憧れの舞台です」