今日も一日、家事や仕事をがんばって、あとは布団に入って眠るだけ。この瞬間が最も幸せだという人も多いだろう。ところが世の中には、「布団に入って寝る」ことが簡単でではない人もいる。主婦の守口春江さん(仮名・87才)は、夜になるたび「一か八か」で眠ると話す。
「毎晩、『今日は眠れるだろうか』と思いながら布団に入ります。真っ暗な部屋で目を閉じると、昔の失敗や、子供家族への心配事などが次々と浮かんできます。眠れないまま外が明るくなることもしょっちゅう。夜眠れなかった日は頭と体が重いので、多めに昼寝するようにしています。もう何十年もそんな生活で、夜眠れた日は“ラッキー”という気持ちです」
眠りたいのに、布団に入るとマイナス思考が止まらず眠れない。精神科医の樺沢紫苑さんは、「これは人間の本能だ」と樺沢さんは言う。
「人間は、生命の危機を回避するため、動物的な本能として不安なことや心配なことをつい考えてしまいます。そのとき、脳の『扁桃体』という部分が活性化します。『扁桃体』は、原始人が猛獣と対峙するときに活性化していた部分であり、“眠り”とは真逆の役割を持ちます。
毎晩のように不安なことを思い返していると、“今日も眠れない”と、さらに恐怖心が膨らんで悪循環に陥ってしまう。睡眠は心にも大きく影響するので、うつ病などの精神性疾患につながる恐れがあります」
では、リラックスして眠りにつくためにはどうすればいいのか。樺沢さんがアドバイスする。
「その日の楽しかったことを3つ思い出し、ノートに書き出してから布団に入るといい。扁桃体が落ち着き、リラックスできます。避けるべきは、就寝前にニュース番組を見ること。映像は文字情報の6倍記憶に残るという研究があり、ネガティブなニュース映像は脳を強烈に刺激します」(樺沢さん)