最新著『ムショぼけ』を上梓した“異能の小説家”沖田臥竜さん(45才)と、同作の連続ドラマ化を企画プロデュースした新進気鋭の映画監督・藤井道人さん(35才)の対談が実現。話題の2人が「人生のやり直し方」について語り合った──。
「あくまで悪いのは社会でも世の中でもない。本人です。親の言うことも聞かず、社会に背いた結果なんです。それなのに普通の生活をしようと思っても、待っているのは厳しい現実です。そこに、社会が残酷だとか、世間がつらいとかはおこがましい話。それはそうでしょう。道を逸れずに一生懸命に生きている人たちですら現代社会は厳しい。
みんな誰しもが、もがきながら、あがきながら、必死に生きてるんです。それでも、どんなにがんばっても浮かばれへんことだって、それはありますよ。
だけど、そこを笑いに変えられるのがコメディーです。元ヤクザで刑務所帰り。そんな男が世知辛い世の中で、失ったものを取り戻そうと悪戦苦闘するからこそ、滑稽であったり、ロマンがあったりして、物語になるんです」
最新著『ムショぼけ』(小学館文庫)を9月7日に上梓した作家の沖田臥竜さんはそう語る。「ムショぼけ」とは、長い刑務所暮らしで、日常生活のリズムや常識を忘れてしまった精神状態を表すという。医学的には「拘禁反応」と呼ばれる。
主人公は14年間も刑務所に服役した元ヤクザ。出所後の「ムショぼけ」に悩みながら家族や仲間たちに支えられ、まっすぐに生きていくというヒューマンドラマ作品だ。
「沖田さんの壮絶な実体験がベースになっている物語だから、リアリティーがすごい。刑務所の中や、ヤクザの行動様式、さらにはヤクザの家族ってどうなんだろうとか、正直言って、ぼくたちにとっての“異世界”を本を通じて追体験させてくれる迫力がある」
昨年の日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた映画『新聞記者』の監督・藤井道人さんは『ムショぼけ』をそう評価する。
壮絶な実体験とは何か。沖田さんは元ヤクザ最高幹部から小説家に転身したという異色の経歴を持つ。獄中生活も約12年経験。その頃から筆を握り、2016年に小説家としてデビューした。
沖田「話し相手のいない静かな独房暮らしを長く続けると、壁に向かって独り言をしゃべる癖が抜けへんし、物音ひとつですぐに目が覚めるようになるんです。いちばんのムショぼけは、タイムマシンで未来に飛んだかのように、進化した社会に戸惑って、置いてけぼりにされたような孤独を突きつけられることですね。
それだけに、その時代の社会を“客観的”に見ることができるという面がある。コッチはなんにも変わらんのに、社会はごっつい変わっとる。だから、世の中がどう変わったか、よく見えるんです」