事件や事故の報道につきものの被害者や加害者の顔写真がある。近影が見つからなかった場合、十年以上前の卒業アルバム写真が使われる事も珍しくない。最近では、家族の希望で被害者の実名や写真の報道を取りやめる例も出てきたが、申し入れされるまでは警察発表通りの実名と、入手できた顔写真が報じられる。俳人で著作家の日野百草氏が、千代田区で起きた6人死傷タクシー事故について現役タクシー運転手が抱く複雑な思いを聞いた。
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「驚きました。事故でも顔が出ちゃうなんてね」
都心の個人タクシー、60代の運転手さんが先日起きた悲しい事故の話をしてくれた。タクシー運転手の方々はコロナ禍にあっても個々人の日常を運ぶ。しかしその日常に潜む、すべての危険とも隣り合わせである。
「事故を起こしちゃいけませんが、それでも人間ですからね、絶対はないです」
東京都千代田区九段南で9月11日、個人タクシーが男女5人をはねて死傷させてしまった。千代田区役所近くの内堀通り、現場を確認したが見通しの良い片側二車線、よほどの事情でもない限り歩道に乗り上げるような場所ではない。実際、ブレーキ痕はなかった。
「人間いつ何があるかわかりませんね、くも膜下(で運転を制御)なんて無理ですよ」
運転手さんは事故のことも病名も知っていた。事故を起こした運転手の方はくも膜下出血だった。脳の主要血管はくも膜という薄い膜を通っている。その血管が裂けてくも膜下腔に広がり脳にダメージを与える。原因は高血圧、動脈硬化など挙げられるが脳動脈瘤そのものは誰にも出来得るものであり、いつのまにか出来ていつのまにか消えていたりもする。遺伝的要因もあるとされる。
「あの人(事故当事者の運転手)だってまさか自分がなるとは思ってなかったでしょう」
くも膜下出血は約50%が死亡すると言われる。大出血なら一発で死ぬ。事故の運転手は病院に運ばれたが亡くなられた。こんな大事故となってしまうとは、自分が死ぬとは思っていなかっただろう。
「私も毎日仕事で運転してるわけで、いつそうなるかわかりません。でも名前どころか顔まで晒されるのは怖いですね」