近年ブームの「菌活」。人の体に存在する菌の中で、最もポピュラーなのが「腸内細菌」だろう。腸内細菌は菌の種類ごとに密集して腸壁に生息しており、その様子が“花畑”に似ていることから「腸内フローラ」と呼ばれている。
この腸内フローラの環境を改善する「腸活」は昨今の健康ブームでもいちばんの注目ワードで、「腸活でやせる」「腸活で免疫力を高める」といったキャッチフレーズを見かけない日はない。
ひと昔前は、腸の役割というと「便をつくる」という印象しかなかったが、最近では、腸の調子が精神面にも大きく関与することがわかり、「第二の脳」とも呼ばれている。たとえば、脳内には多くの神経伝達物質が存在するが、リラックスや幸福感などをもたらす「セロトニン」という物質に関しては、脳には全体の2%しか存在せず、90%が腸に存在するとされる。
そればかりではない。腸内細菌が「若返り」とも大きく関係しているという論文もある。8月にアイルランドの国立大学の研究チームが、若いマウスの糞に含まれる腸内細菌を老いたマウスに移植したところ、学習力や記憶力などの認知機能、さらに免疫機能も向上したという結果を発表した。この実験が人間にも当てはまるかどうかは未知数だが、腸内細菌に「若返り」のヒントが存在することは間違いないだろう。
腸内細菌は、人間の腸内に1000種類、数十兆個も存在するといわれ、同じ腸内フローラを持つ人は存在しない。ヒト細菌叢解析の専門家である岡山大学農学部教授の森田英利さんは、その特徴をこう話す。
「腸内フローラは、その人の食生活や生活習慣によって差ができます。そのため、住んでいる国や地域によって腸内細菌の構成は大きく変化します。日本人の場合は腸内細菌の約30%がビフィズス菌で、ビフィズス菌を多く保有していることが健康的とされています。しかし、他国ではビフィズス菌をほぼ持たない人も珍しくない。だからといって、不健康なわけではありません。国や地域により、健康的な腸内フローラは異なるのです」
海外旅行先でお腹を下しやすくなるのは、そうしたことも要因の1つ。では、海外生活を続けていれば、腸内細菌もその国の人と同じになるのかというと、そうでもない。乳幼児期は、誰もが母乳か人工乳を飲むため腸内フローラに目立った差は生じないが、離乳食を食べるようになると、国や地域の違いが一気に表れてくる。
「腸内フローラを形成する細菌の種類は、離乳食の時期に決定します。それ以降に食べたものに由来して新たな細菌が腸内に定着することはほぼありません」(森田さん・以下同)