暴力団排除の流れが、いよいよヤクザのライフラインまで脅かしている。東京ガスが9月から検針の際に配布している「ガスのご契約内容に関するお知らせ」である。10月1日付で約款に変更が生じ、新たに〈現在かつ将来にわたって暴力団、暴力団員(中略)等の反社会的勢力に該当しないことを表明し、保証していただきます〉と記載された。
同社がホームページで公開している「一般ガス供給約款(東京地区等)」にも同様の記載があり、違反した場合、〈通知又は催告等何らの手続を要しないで直ちにこのガス需給契約を解除することができる〉という。約款の変更は大阪ガスでも行なわれ、こちらも反社会勢力の排除に関する規定が追加されている。
なぜ今、約款の変更に至ったのか。
「2017年にガスの自由化が進められた際、東京ガスと大阪ガスは経過措置として、料金や供給条件に規制がかけられていました。今回、9月30日をもって規制が撤廃されることで、対象約款について一部変更することになり、反社会勢力への供給停止についても明記することになりました」(東京ガス広報部)
実際に暴力団関係者と判明した場合、供給を停止するのか聞いたところ、「今後の運用は未定です」(同前)とのこと。
ガスは電気、水道と同じでライフラインだ。もし供給停止となると、憲法に規定された「生存権」に違反することにならないのか。アトム市川船橋法律事務所の高橋裕樹弁護士はこう言う。
「本来は憲法違反ですが、暴力団対策法によって制限は認められています。住居の賃貸契約でも暴力団員だと発覚して追い出したことが認められたケースもある。ライフラインについても同様で、企業側が契約条項に明記すること自体は違法ではないと思われます。ただし、暴力団関係者が子や家族と同居している場合は、彼らの生存権が考慮されるので難しい判断になる」
「ヤクザと家族」はいよいよ追い込まれた。
※週刊ポスト2021年10月1日号