刑務所の中で受刑者たちがどんな生活をし、出所後にどんな暮らしが待っているか、身近に感じられない人は多いだろう。10月から始まる連続ドラマ『ムショぼけ』(主演・北村有起哉、ABCテレビ・テレビ神奈川)は、そんな“ムショ暮らし”をした元ヤクザを描いたドラマだ。
原作は、9月7日に発売された小説『ムショぼけ』(沖田臥竜著)。長い刑務所暮らしで、社会と隔離された生活を送った主人公の元ヤクザが、出所後に世の中の環境の変化やスピードの速さについていけずに「ムショぼけ」してしまう姿を描いたヒューマンコメディー。独房での長い生活がたたり、ついつい壁に向かって座って独り言を話す、静かで真っ暗な場所での睡眠に慣れたため物音1つで目が覚めてしまう……。同作には、こんなリアルな“塀のなか”の様子が描かれる。
〈カレーは日曜の昼に決まって出された。
お椀に注がれるカレーを見て、懲役たちは子どものようにはしゃぐ。
「おっ、当たりや! ドロドロで具だくさんやがな」
「チッ、ハズレ。シャバシャバなスープやないか。具もうっすい、うっすい」
こんな具合に毎週、一喜一憂するのが日常だ。
刑務所の食事は、炊場(すいじょう)と呼ばれる部署に配役された同じ懲役が作っているが、その時、その時によって、微妙に味が異なる。こればかりは、刑務官に文句を言ったところでどうしようもないのである。〉
ドラマを企画プロデュースしたのは、昨年3月、日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた映画『新聞記者』の監督でもある藤井道人監督(35才)だ。藤井さんがこう語る。
「現代の情報社会では、たいがいのことの詳しい情報は手に入るし、体験しようとすればできることが多い。だけど、“塀のなか”だけは普通の人には体感できるものじゃない。10年以上、刑務所に入って“時が止まる”とはどういうものなのか、正直言って想像もつきませんでした。それが『ムショぼけ』には、とにかくリアルに描かれている。原作小説を読んだとき、これは誰も読んだことがない物語だと思いました」