どのように老い、死を迎えるかを考えたとき、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師は、自分自身を上機嫌にして老いを楽しむ「老い楽死」がよいと思うようになった。老いを楽しむための障害として立ちはだかるストレスや孤独は、どうやって回避できるのかを解説する。
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老化を進める生活習慣として、運動不足や食事の偏り、肥満、喫煙などがあるが、過度なストレスもその一つである。
ストレスは全身に慢性炎症を起こし、それが高血圧や動脈硬化、脳卒中、あるいは脳細胞の慢性炎症によって認知機能の低下などの原因になるといわれる。最近はがんも慢性炎症が関係しているという。
もう一つ、見過ごせないのが、「孤独」や「孤立」である。アメリカのブリガムヤング大学は、340万人以上のデータから、「孤立」や「社会的孤立」「一人暮らし」が死亡リスクを高めると発表している。これらは肥満よりも健康に悪いというから、想像以上に深刻だ。
もう少し詳しく言うと、「一人暮らし」の人は死亡リスクが32%高くなり、人とのつながりがない「社会的孤立」の状態だと29%高くなる。「孤独感」があると26%高くなる。
厚生労働省研究班がアメリカの医学雑誌ストロークに発表した論文を見ると、男女4万4000人を対象にした調査で、社会的な支えの最も少ないグループは、最も多いグループより脳卒中による死亡が1.5倍多かった。
東北医科薬科大学の福地成氏らの研究によると、妻と死別や離婚した男性、未婚男性は、自殺リスクが高い。この傾向は男性のみで、女性ではそのような傾向は見られなかったのも興味深い。男のほうが孤独に弱いのだろうか。また、中年で独り身になった人は、アルツハイマー病の発症リスクが3倍高いというフィンランドのデータもある。
孤独は行き過ぎると、ストレスになり、慢性炎症が起こりやすくなる。うつ状態にもなりやすい。ストレスで過食傾向になり、肥満や糖尿病の原因となることも、健康を害し、老化をすすめると考えられる。
「安楽死」よりも「老い楽死」
いま、家族がいるから大丈夫と思っていても、家族の中で孤独を感じることもある。夫婦二人暮らしでも、どちらかが必ず先に逝き、残された人は一人になる。
結局、孤独に対処するには、「気」のもちようが重要になるのではないか。老いは個人戦である。一人暮らしでも、同居人がいても、精神的に自立し、一人で生きる覚悟をもつことが必要なのだと思う。