2021年8月、楽天グループは高速通信規格5Gの基地局建設の遅れなどの影響で、最終損益が654億円の赤字となることを発表した。アップルも7~9月期の売上は鈍化。トヨタは8月に国内14工場の生産停止を余儀なくされた。
経済活動の変調を引き起こした原因は世界的な半導体不足だった。コロナ禍での巣ごもり消費、非接触、リモートワークの高まりで半導体需要が急増。加えて、米中対立がこれに拍車をかけた。米国は中国に対し半導体の輸出規制を強化し、中国は大量の半導体を抱え込むことで対抗。世界各国の工場はフル稼働を続けている。
「産業のコメ」とも呼ばれる半導体は国家経済の命運を握る。米国のバイデン大統領は4月、「最優先かつ喫緊の課題」として半導体の生産と研究開発の強化に500億ドル(約5兆5000億円)の政府資金拠出を発表。ヨーロッパ各国や台湾、韓国も動きは素早く、自国企業の支援に乗り出した。
世界が色めき立つ中で、日本はいかなる立ち位置なのか。歴史を振り返れば、1970年代から1980年代にかけて日本は市場を独占、“日の丸半導体”と呼ばれて世界を席巻した。半導体エネルギー研究所顧問の菊地正典氏が当時を振り返る。
「日本が得意としたのはメモリと呼ばれる種類の半導体でした。世界シェア50%を握り、半導体は日本のお家芸といわれました」
潮目が変わるきっかけは1986年に締結された日米半導体協定だ。日本市場における外国製半導体のシェアを20%以上に引き上げるなどの規制により競争力を奪われ、1990年代に入ると世界トップの座を韓国企業に明け渡すまでに低迷する。現在、50兆円にのぼる世界市場で“トップ3”は、インテル(米国)、サムスン電子(韓国)、SKハイニックス(韓国)。世界ランクに入る日本企業は、NAND型フラッシュメモリのキオクシアやイメージセンサーのソニーなど、数社に過ぎない。経済産業省も、2030年にはシェアが0%になると危機感を募らせている。
「世界で日本の存在感が低下しているのは事実ですが、製造装置や素材といった分野では、まだ高いシェアを握っています」(英国調査会社オムディア・コンサルティングディレクター・杉山和弘氏)