コロナワクチンの接種率がようやく先進各国に追いつきつつある日本で、いよいよ「ワクチンパスポート」の本格導入が進んでいる。もともと接種を受ければ接種券に記録が残るし、自治体などでは、すでに独自にパスポートを発行して地域の商店街で割引を受けられる特典を付けるなどの例はある。それに加え、政府は年内にもスマホに記録を残せるQRコード方式のパスポートを発行する検討に入った。
しかし、話はそう単純ではない。先行するヨーロッパ各国では、パスポート発行は事実上のワクチン強制につながる、接種を受けていない人への差別につながるとして反対論が根強く、抗議デモも起きている。海外事情に詳しい航空ジャーナリストの鳥海高太郎氏は、日本でも課題は多いと指摘する。
「ワクチンを打った人からすれば、安心して生活できる権利を求めるのはわかります。実際に海外ではパスポートを持っているかどうかで様々な規制をかけているわけです。しかし、日本ではワクチン接種は任意であり、仮にパスポートが発行されても、飲食店などはワクチンを打たない人にも配慮しなければならないでしょうね。ニューヨークのように、パスポートを持たない人は店に入れないといった対応はあり得ないと思います」
接種の有無で特に厳しい規制をかけているのがフランスだ。医療従事者は接種を受けなければ給料ゼロにされるし、学校ではクラスに濃厚接触者が出た場合はパスポートを持つ生徒だけが登校できる。企業によっては、パスポートを持たない社員は出社させないとか、極端なケースでは解雇するといった強い対応もある。
当然ながら、そこまでの規制があれば、人間関係に軋轢も生まれる。スペイン、フランスを拠点に活動するジャーナリストの宮下洋一氏が語る。
「フランス国内にも、もちろんワクチンを打たないという信条の人はいて、人間関係でも問題が起きているようです。7月にイプソスという調査会社が行った世論調査によると、41%の人が『ワクチンパスポートの話になると緊迫状態や深刻な言い争いになる』と回答し、73%の人が『公共交通機関を利用する際にパスポートを持たない友人がいる場合は利用を諦める』と回答しています。ちなみにスペインでは、知人に対してもワクチンを打ったか打たないかは聞かないようにする雰囲気があります。
私自身もワクチンを打っていないのですが、それはワクチン本来の目的が見失われているように感じているからです。ワクチンは感染者や重症者を減らすための医療行為だと思いますが、いまや仕事や生活のために打たなければならないものになっていることに違和感を抱いています。パスポートを持っていないと、国境を越えるたびにPCR検査を受けなければならないし、その費用は1回の検査に1万3000円くらいかかりますから大きな出費です。しかし、ワクチンを打つかどうかは個人で決めるべきだと思います。打っていなくても街に出る権利はあるし、病院に行く権利もあるはずです。その権利を国が奪っていいのか、私だけでなく不満を持っている人はたくさんいると思います」