ようやく、新型コロナウイルス第5波収束の兆しが見えてきた。しかし、今なお感染対策の一環として、歯科治療の受診を控えている人が少なくないようだ。歯周病治療を中断したまま、この1年余りを自己流で凌いできた人もいるだろう。
では、「歯周病対策」を謳った高価なハミガキペーストを使っていれば、進行を防げるのだろうか? 歯周病治療の指導者として知られる、元東北大学臨床教授で弘岡歯科医院(スウェーデンデンタルセンター)院長の弘岡秀明氏がいう。
「歯周病に効きそうなハミガキペーストは、様々な種類が売られていますが、これまでの臨床研究で大きな差はないことが分かっています。歯周病による歯肉の腫れを緩和する、という製品もありますが、あくまで対症療法であり、歯周病を治すことはできないでしょう」
去年、米・ニューヨークタイムズ紙が、〈新型コロナの感染リスクが最も高い職業は、歯科医と歯科衛生士〉という記事を掲載した。
これが日本でも報道されて、歯科治療の“受診控え”が起きたといわれる。だが、これまで歯科クリニックで新型コロナのクラスターが確認されたのは、たった1件のみ。歯科治療でコロナ感染する可能性は極めて低いといえるだろう。
これからは、受診控えで歯周病が進行してしまうリスクを心配すべきではないか、と弘岡氏は指摘する。
「すでに歯周病になっている人や過去に治療を受けた人も、定期的にポケット内からバイオフィルムを取り除くスケーリング&ルートプレーニング(通称SRP)が必要です。これは患者自身で行なうことは不可能です。また、歯周病の診断は歯周ポケットの深さを測定することが必要です。歯周病の人はそろそろ通院の再開を検討したほうがいいと思います」
歯周病を早期発見、早期治療するポイントをいくつか挙げてもらった。
・ブラッシング時の出血
・歯肉の腫れ
・歯が動揺する
・マスク装着時の口臭
こうした症状に気づいたら、日本歯周病学会、または日本臨床歯周病学会の専門医がいるクリニックを早めに受診する必要がある。
「歯周病は新型コロナだけでなく、糖尿病や心疾患などにも影響していることが分かってきました。全身状態を左右する大変な病気であると考えてもらいたいです」(弘岡氏)
レポート/岩澤倫彦(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2021年10月8日号