菅義偉首相が出馬せず、4人が争う形となった自民党総裁選。菅政権が国民の支持を失ったのは感染対策の失敗が原因だが、自民党はコロナ禍でその菅首相を引きずり下ろし、感染拡大さなかの1年半で総理大臣が2人も交代することになった。自民党は統治能力のなさを露呈した。
混乱の原因をつくったのは、キングメーカーの安倍晋三氏と麻生太郎氏だ。かつて三角大福中(三木武夫、田中、大平、福田、中曽根の各首相経験者)が総裁選で権力を奪い合った時代の自民党は、派閥の駆け引きや合従連衡が行なわれて「角福戦争」や「田中支配」と呼ばれたが、総裁候補はいずれも総理を目指して同志を集め、派閥を率いる領袖、一軍の将たちだった。
だが、今の自民党は、安倍氏と麻生氏は党内基盤が弱い無派閥の菅首相を立て、自分たちの支配力を強めようとした。それが危機に弱い政権を生んだ。ポスト菅の総裁選でも、その2Aは敵対する勢力を排除し、次の総理も決めようとしている。政治ジャーナリスト・田中良紹氏が指摘する。
「長期間の権力は腐敗すると言うが、これほど長期間、日本の政治をリードし、自分のやりたい政策を続けるというのは、一種の私物化になりかねない。これが健全な民主政治と言えるでしょうか。今回の総裁選は、安倍・麻生のキングメーカーによる政治が続くのか、世代交代で自民党の権力構造が大きく変わるのかが真の争点です。国民はどちらを望んでいるのか」
自民党内は総裁選の締め付けの中で安倍チルドレンと呼ばれる中堅若手をはじめ、ベテラン議員にも、「安倍さんも麻生さんも、国民の支持を失った菅首相の続投を支持すると言って反発が広がると、急に菅降ろしに走った。現在の混乱は2Aの政治ゲームに責任があるのに、次も自分たちで決めようとしている。これでは国民は納得しない」との不満が確実に積み重なっている。
権力は蟻の一穴から崩れ、どんなキングメーカーも「数の力」を失った途端に影響力は消える。2Aの権力基盤である細田派と麻生派の分裂の動きを見ると、誰が次の総裁になっても、自民党が2A支配から脱却し、2人がお払い箱にされるのは時間の問題だ。
それに気づいていないのは、オレにはまだ力があると思い込んで総裁選に介入する“裸の元総理”と、国民感情を逆なでする無責任発言を繰り返す“裸の副総理”だけだろう。
※週刊ポスト2021年10月8日号